ミスターMのおいしい旅の話「次の旅はここへ行け!」
Vol.105

Vol.
105

本当に外国人がしたい「ニッポン旅行」とは

Takaragawa Onsen Osenkaku

日本ブームの今、外国人観光客の「ニッポン観光」はよりディープになっているようです。私のタイの友人は20年ほど前から日本に来ていますが、最初の頃は東京・大阪・京都といった定番巡りがメインでした。ところが、彼の子供たちが成長して全部手配するようになってからというもの、旅の仕方ががらりと変わってきたのです。今回彼らが家族5人で訪れた、聞いてビックリの意外な人気スポットとは……。

川沿いの巨大露天風呂に大感激

彼らがレンタカーを手配して最初に向かったのは水上の宝川温泉の宿、汪泉閣です。映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地になったことで知られていますが、日本人にしてみればごくごく伝統的な温泉宿。ですが、ここはサイトを始め海外向けの情報発信が実にうまいんですね。それが功を奏して今や海外では超有名な1軒になっているのだとか。アピールポイントは、川沿いにある200畳敷きの大露天風呂。友人曰く「他には二つとない、こんな雰囲気味わったことがない!」という超絶ロケーションなんだとか。

泉質は無色透明の単純温泉。これもまた、温泉に入り慣れていない外国人にはいいようです。特に亜熱帯エリアの東南アジアの人々は、体の毛穴が開いているのか、温泉成分の浸透度が日本人に比べるとはるかに早い様子。鉄泉や硫黄泉のような刺激の強いお湯は、10分もつからないうちに湯あたりしてぐったり。頭が痛くなってつらいんですって。

だから長湯ができて景色と空気を含めたアンビアンスを存分に楽しめる宝川温泉は、彼らにはベストなんですね。事実、この旅の最終日に今回はどこがよかったかと聞いたところ、「やっぱりオウセンカクがナンバーワンだね」。おそらく、ここを訪れるほとんどの外国人が同じ感慨を持つのではないでしょうか。

まだまだハードルが高い本格的湯治の宿

次の目的地は湯治で有名な万座温泉の日進舘。宝川温泉とは異なり、ここは白濁した湯でにおいも味も強烈な硫黄泉。私が入っても強いお湯だなあと感じるのですから、案の定、友人は頭が痛いと。ここで驚いたのは、話しかけてこられた美しい女性スタッフで英語が流暢な人がいたこと(あとで判明しましたが、実は社長のお嬢さんで留学経験の持ち主でした)。ということは、ここにも外国人がたくさん来るのだろうと思いきや、「全然来ませんよ」(笑)。

その理由は、万座には温泉以外何もないから……に尽きるようです。たとえれば、大湧谷に温泉宿が点在しているような感じでしょうか。外を歩き回って、ちょっとお店を冷やかして……なんて言う楽しみが一つもない。お湯がすべて、湯治が全ての場所なんです。お湯の効能を知り尽くした日本人ならそれでいいのですが、まだまだ外国人にはハードルが高い場所かもしれませんね。まあ、ゆっくりお湯につかって静かに温泉を楽しめる宿……そのうち貴重になりますよ~(笑)。

富士山の絶景を求めて河口湖温泉へ

そして、東京に戻る前の最後の投宿は河口湖温泉。今や河口湖の湖畔、数百メートルの崖の下の狭い場所は、温泉宿や観光ホテルがひしめきあっているんですね! なぜなら、そこは河口湖越しに遮るもののない富士山が望める最高のロケーション。さらに驚いたのが、このエリアはほぼ9割が東南アジアや中国からのゲストで埋め尽くされているということです。実際、私の滞在中は日本人を全く見かけませんでした。まあ、確かにあの大絶景を見たら、外国人が殺到してくるのもわかります。

私は友人たちと同じ宿に空き部屋がなく、近くのいわゆるビジネスホテル系に宿泊したのですが、私以外は全員中国人。支配人に聞いたところ、中国人団体客が来るようになって、日本人客が逃げてしまったのだとか。問題は中国人のむちゃくちゃなお風呂の入り方。子供と同じで、大風呂や露天風呂は珍しい、楽しい! 大はしゃぎで出たり入ったり大忙し、洗い場はすべて散乱と、まさに阿鼻叫喚状態。

また「水着やバスタオルを巻いたままで入らないでください」と注意したところ、「私は温泉の入り方はテレビを見たりしてよく勉強してきた。だってテレビのレポーターはみんなタオルを体に巻いて入るじゃないか」と。いや、それは……と説明しても、頑として聞く耳を持たないのだそうで(苦笑)。なるほど、そんな場面に出くわしたら、日本人は逃げ出しますよねえ。

東京を東奔西走して焼き肉!

さて、東京に戻ってきたタイの友人ご一行様。もちろん築地やディズニーシーなどの「定番」も行きましたが、都心でのハイライトはなんと焼き肉! しかも行きたい店は三ノ輪にあるのだといいます。その情報源は食べログのタイ語版。店の歴史やコストパフォーマンスの良し悪しも含め、データのクオリティと信頼性がハンパじゃないんですね。

結局その店は予約が取れずにあきらめたのですが、第二候補の店はというと、今度は三田。ここでも席につくまで1時間ほど待たされたのですが、観光客向けの店ではなく日本人で満杯の店に行くのがスゴイ。移動の苦をものともしない行動力と忍耐力には、ほとほと感心させられました。そこまでしても食べたいほど、日本の肉のおいしさは圧倒的なのですな。

友人も「もうタイに帰ったら肉を食べなくてもいい」と言うくらい食べまくっていましたし、別のシンガポールの友人は池袋を歩いていて、たまたま目に入った普通の焼き肉屋に入って大感動! 滞在中毎日通ったあげく、帰国後に家族や友人に熱弁をふるい、次は皆を連れてまた通い詰めたというほど(なんと昨日メールが届き、また今週日本に来る、いや食べに来る、と。笑)。どの国の人も口を揃えて言うのが「あのクオリティであの値段は信じられない」。アメリカのミリオネアの友人なぞ、口の中でとろける松坂牛を食べて「……アイ・フィール・ギルティ」とつぶやいていましたっけ(笑)。

海外旅行で子供の見聞を広める

話を戻しますが、先のタイの友人家族の日本訪問、これは特別な金持ちの旅行ではありません。今日のごくごく一般的なスタイルだと思います。彼らの目的は日本のカルチャーやオリジナルに触れ、知り、面白いものやなかなか経験できないことをするのが最優先。その中で子供の見聞を広め、教育に役立てていくのですね。

だから友人も日本滞在中、疑問に感じたことや私たちが何気なくしている習慣もすぐ「なぜ?」と聞いてきます。なぜ箸はそうやって持つのか、とか。私も答えるのに必死でした(笑)。こうした家族旅行を経験しながら育てられてきた第二世代、ネクスト・ジェネレーションは間違いなくスマートで賢いですよ。特に海外で教育を受ける機会を与えられた子弟は、情報収集力や解析力が段違い。視点や思考力がグローバルでビジョンも明確だし、そのための努力も惜しみません。

もちろん、情報機器の発達がそこに大きく寄与していることは否めませんが、外に発信していく積極的かつしたたかなスマートさを持ち合わせているように思います。海外のそうした若者たちを見ていると、「教育は力」だと言う言葉を実感しますねえ。留学も海外赴任もイヤ、外国旅行も興味がないという若い世代が増えている日本は、これからどうやって台頭していく国々と渡り合っていくのでしょうか。

「我が世の春」はいつまでも続かない!?

インターネットを通じてあらゆる情報が収集可能な今日、世界には想像以上に日本の文化に精通している人がたくさんいます。そんな人たちが日本に来て、日本人も知らないようなところに価値を見いだしていく。それは私たち日本人にとってもありがたいことですが、「やっぱり日本はイイ、日本はスゴイ」とあぐらをかいていてはいけないような気がします。

これからも各国の渡日者層は拡大していくでしょう。けれど、いつまでも日本に都合のいい外国人ばかりが来てくれるわけではありません。実は拡大するマーケットにはいろいろな問題が隠れていますし、あっという間に状況は変わる可能性も少なくありません。その時、日本人はどうするのか、日本はどういう国として外国人に受けとめられるのか……。次回はそんな「陰の部分」について触れたいと思います。

花鳥風月

タイ人は日本で何を買う?

東南アジアの経済中核国であるタイでは、都会の街中で普通にハイブランドの商品が手に入ります。だから日本に来たからといって、目の色を変えてブティックなどに突進する人はあまり多くありません。反対に、私たちがごく普通に使ったり食べたりしている日常品のほうが、よほど新鮮に映るようです。なにしろタイでは日本のものは何でも高いですからね。

今回、友人たちも街角のドラッグストアやコンビニに入ったとたん、総ウハウハ状態に! メイド・イン・ジャパンはクオリティが高いし包装もきれいだから、何でもかんでも魅力的。女性陣は老いも若きもコスメ類に釘付けで、「安い、安い」と大コーフン。棚にあるだけ全部買い込んでおりました。友人はトクホのお茶に目を付け、私がその効能を説明すると、もう翌日にはそのためにわざわざスーツケースを買っている(笑)。目一杯詰め込んでお土産に持って帰っていきました。一方、若者たちはやはりネットで欲しいものをよく調べておいて、アウトレットでちゃっかり親にたかっている。これはどこの国でも同じでしょうね。


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