Vol.
150
不況を生き延びたホテルの構造
プラザホテルがオープンした1900年初頭、まだ旅行は庶民のものではなく、一握りの富裕層が楽しむものだった。そこで建てられた豪華ホテルの主な役割は、富裕層が長期に渡って暮らす別荘的なもの。アメリカを代表する富豪ファミリー、バンダービルト一族やアスター一族などが何十年にも渡って暮らしていた。
1929年に起きた世界大恐慌で、アメリカ中の8割ものホテルが倒産に追い込まれるなか、プラザホテルが倒産を免れることができた理由は、大富豪たちが暮らし続けていたからだった。ホテルゲストはいなくても、暮らしている人々が賃貸料を払いつづけた。しかし、第二次大戦後にやってきた好景気が、旅を庶民のものに変えた。ホテルの用途はビジネス客や観光客に占められるようになり、別荘としての役割は終焉を迎える。だが、1990年後半になると、今度は、ホテルとマンションが共存するビルの開発が進みだした。
フォーシーズンズホテル、リッツカールトン、パークハイアットなどの超豪華ホテルは、運営に経費がかかりすぎ、ホテルのオーナーが順当な利益をとれないという欠点がある。高級ホテルは、雇っているスタッフの数が多く人件費が高い。アメニティーも高価なものを使う。プールやジムなどの経費もかかる。それがオーナーの利益を減らしていく。資本主義の強いアメリカ社会では、高い利益をだせないホテルのオーナーになる人は少ない。1990年後半から2010年前半にかけては、高級ホテルの数が伸び悩む時代が続いた。
そうした苦しみの中、彼らが考えだした挽回策が、建物の上層階をマンションにして販売するというものだった。超豪華ホテルのサービスが受けられるマンションは、通常のマンションよりも遥かに高い値段で売れる。それにより、オーナーは最初の段階で利益を確保できる。これはとても大きなメリットになった。
今、我々は、歴史上例のない苦難の時期を経験している。アメリカの大都市にある通常のホテルは閉館を余儀なくされている。だが、賃貸マンションを含んでいるホテルは、管理費をとれるため、最低限の収益を保つことができる。コロナが終わったあと、不況に強いホテルが求められるようになることは間違いない。それにより、さらに、マンションとホテル。あるいは、レンタルアパートとホテルの組み合わせが増えていくことだろう。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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