HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
149

アメリカのホテル業界を追い込むコロナショック

2020年3月27日、ニューヨーク・プラザホテルの無期閉館が決定となり、251人のスタッフがレイオフになると報じられた。外出禁止例が3月22日に発令になった時点で、メジャーなホテルは無期閉館を決めた。3月の第3週のニューヨークのホテルの平均稼働率は15%。これでは赤字にしかならない。先行きが見えない以上、運営を続けることはできないという判断になるのは当然のこと。

マネージャーは全員解雇となり失業保険を取る。ユニオン(労働組合)に入っているスタッフは、ホテルが再オープンした時には職場に戻れるが、それまでの間は給与なしの休暇を過ごす。今回のケースでは、無収入になっている間、政府からの助成金や、急遽設定された“3ヶ月間の家賃滞納は法で許される”などの保証によって生活を凌ぐことになる。

外出禁止例が出された州では、州が決めた“エッセンシャル”(生活必需品を扱う)な店以外は営業が許されない。ホテルの運営は宿泊とルームサービスに絞られる。この運営をエッセンシャルと見なすか否かは州によって分かれる。ニューヨークやカリフォルニアなど、感染者の多い州では、他の地域から援助に来ている看護師や医師の泊まる場所が必要なため、エッセンシャル、あるいは、医療関係者を泊める場合のみエッセンシャルとみなされる。

マンハッタン屈指の超豪華ホテル、フォーシーズンズはいち早く、自ら建物を医療施設として貸すことを提案し話題となった。その後、ニューヨーク市は20軒のホテルを借り1万室を確保した。サンフランシスコでも同じ動きが起き、食事付きで一部屋213ドルを市が払っているホテルがある。シカゴでも、4軒のホテルを借りあげ、患者を泊め食事を出し、1軒あたり1ヶ月、1ミリオン(1億1千万円)程度のお金を払っているという報道もあった。この危機的状況の中に活路を見い出して生き残るホテルもあれば、倒産していくホテルもある。

現状況が半年続けば、アメリカ中の8割程度のホテルが破産状態に追い込まれると予想する専門家もいる。ホテルが脆弱なビジネスということが強調され、しばらくホテルが分譲マンションへと改築される動きもでるだろう。それでも、多くの建物はホテルとして残るし、以前ホテルで働いていたスタッフもたくさんいる。ホテル業が活気を取り戻す日は必ずやって来る。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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