Vol.
148
ホテルのコロナウイルス対策
現在、ニューヨークでは、エスカレーターの前とレストランの前に、消毒ジェルを設置する大型ホテルがでてきた。アメリカ人はあまり手を洗わない。レストランに行っても、手を洗わず、そのままパンをちぎって食べる。現状に置いては、その習慣は変えなければならない。手洗いに行くのが面倒という人のため、消毒ジェルをおくことで、対処するホテルが現れた。また、ニューヨーク州の決定に従い、レストランでは、席数を減らし、テーブル間隔を広げている。
もちろん、このようなことをしても、ゲストの数が増えることがないのは承知の上。今、ホテルが行わなければならないことは、とにかく生き延びること。そのために最も大切なことは出費を減らすこと。ホテルの一番大きな経費は人件費。よって、フロアーを閉めて部屋数を減らし、レストランを閉鎖、あるいは、席数を減らし、最低限のスタッフで運営できるようにする。レイオフされたスタッフは自宅待機となり、その間、他の仕事をすることも可能。一番困るのがマネージャー。彼らがレイオフになるときは、自宅待機にはならず、解雇になるからだ。今週だけでも、多くのマネージャーが解雇になっているはずだ。
現在、アメリカのホテルの大多数は、ホテル運営会社がオーナーからホテルを借りて、運営を行うスタイル。ホテル運営会社は、売上からパーセンテージを得る契約なので、赤字になることはなく、経済的負担は全てオーナーが負うことになる。赤字になるときは、オーナーとホテル運営会社との間に折衝が続き、ホテル運営会社は苦渋の選択で、マネージャーを解雇していく。過去20年を見ると、同時多発テロ、SARS、豚インフルエンザ、リーマンショックと、幾度となく危機は起きた。
同時多発テロのとき、私はプラザホテルで仕事をしていた。そのとき、セールスマンに求められたものは分析力だった。様々な分析を行い、どこにビジネスがあるのか。それを実行するにはどうしたらいいのか。それぞれ研究をして対策を立て、発表を行った。それに説得力がないセールスマンは解雇されるという状況にあった。
飛行機が飛んでいる限り、電車やバスが動いている限り、人々は移動している。そして、その中にはホテルを必要としている人がいる。そうした人々を見つけ、誘導するにはどうしたらいいかという分析が行われた。ただ、闇雲に料金を下げるというのは浅はかな行いに過ぎない。一人でも多くのスタッフを救うためには、正しい分析をして正しい戦略を立てることが必要とされる。コロナウイルスは全世界的な広がりであるため、以前の危機とは規模も違う。どれほどの被害となるか予想もつかないが、歴史が示しているように、必ず終わる。それまで、全ての人々の健闘を祈りたい。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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