Vol.
146
ホテル内のレストランに見る時代の流れ
1900年初頭から1980年くらいまでに建てられた多くの高級ホテルには有名なレストランがあった。それらは収益を生み出すメジャーな場所として存在した。私が働いていたプラザホテルにあったレストランもどれも有名店ばかり。ジョンレノンがよく来た「オイスターバー」、ミュージカルの生みの親と言われたウイリアム・コーヘンが毎晩通った「オークルーム」、映画コットンクラブの撮影で使われた「エドワーデイアンルーム」、そして、世界一美しいカフェと言われた「パームコート」。それらが、ホテル内で食事をする楽しみを作り出していた。
だが、街にセレブシェフが経営するレストランや、個性的な料理を出す高級レストランが増えてくると、ホテルのレストランの人気は下火になって行った。アメリカは儲けを優先する社会ゆえ、ホテルのレストラン経営には無理があると判断されるや、利用頻度の高い朝食だけを用意する場を設けるだけに切り替わっていった。 それから数十年を経て、再び、ホテル内にある人気レストランが栄える時代が戻ってきた。そのほとんどはブテイックホテルの中にオープンしている。洒落たアンティーク調のレストランを造るため、腕自慢のシェフがテナントとして入りだしたことで、こうした現象が起こった。雰囲気と味が良ければ、ネットで話題となり、人びとがやってくる。
グリニッジホテルの中にあるイタリアンレストラン「ロカンダ・ヴェルデ」は予約を取ることさえ難しいレストラン。キンプトンホテル・エバンテの中にあるイタリアンレストラン「ラミコ」と「ザヴァイン」はともに大人気。ザビークマンホテルの中にある2軒のレストラン、「テンプルコート」と「オーガステイン」は、1883年のアンテイークビルの中にある最高の雰囲気を醸し出すレストランとして注目を集めている。こうしたレストランはほとんど有名シェフによって運営されている。 ホテルがレストラン運営をしても、もはや腕のよいシェフに巡り会えないかぎり成功はない。そして、今の時代、腕のよいシェフは独立しているから、ほとんどの場合、テナントとして場所を貸すことでしか、彼らの力は得られない。
ブティックホテルは洒落たレストランスペースを造り、腕自慢のシェフに比較的安い値段でスペースを貸す。そして、売上に比例して、追加のレンタルフィーを取る契約内容にしている。シェフにとっては、この契約はリスクが低いので、借りやすく、双方にとってメリットとなる。こうした方式でホテルが人気レストランを館内にもつトレンドがマンハッタンに広がっている。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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