HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
129

ホテルの電話事情

言うまでもないことだが、ホテルは常に人件費を削る方法を考えている。人件費の削減により最もひどい状況を作りだしているところは、テレホンオペレーター部にあると私は思う。現在、アメリカにあるホテルの多くでは、代表に電話をすると、テープによる案内が始まる。「予約の場合には内線○を、宴会に関しては内線▽を、営業に関しては内線□を」と、長い案内を聞かされる。プロによる案内ならば、聞き取りが楽だが、発音がクリアーでなかったり、早口のときもあったりする。さらには、バックに雑音が入っていることも日常茶飯事。2回、聞き直すと、結構な時間となり、とてもフラストレーションがたまる。

こうなってしまった大きな原因は、ほとんどの人が携帯電話を持つようになり、ホテルの電話を利用しなくなったことにあるだろう。利用頻度が少なくなったから、交換手を削った。交換手が少ないので、テープを回し、担当部署に直接回すように仕向けた。また、利用頻度が低くくなったので、お金をかけなくなる。結果、できあがったテープは、素人が作成したのではないかと疑いたくなるようなものになってしまう。

また、最近のホテルでは、常識までもが乱れてしまっているところがある。先日、ニューヨークにオープンした大手ホテルチェーン運営のニューブランドのホテルに連絡を入れたところ、「ゲストの部屋番号はいくつですか?。それがわからないと部屋につなげません」と言われて閉口した。いろいろ質問したが、結局、ゲストに連絡を取る方法はなく、「この方法では、イマージェンシー(緊急)のときに連絡が取れず、訴えられることになりかねないですよ」と、思わず言ってしまった。先方の答えは「これがホテルのポリシーなのです」とのことだった。物事が判断できないスタッフの、その場限りの言い逃れでないとしたら、いずれ訴訟事件が起こり、ポリシーを変えなくてはならないときがくる。

携帯電話の普及で世の中は変わった。もはや、アメリカを旅するときの緊急連絡先として「宿泊ホテルの電話番号」を残しておくことは危険な時代となっている。連絡が取れないと困る場合には、個人の携帯電話をアメリカでも利用できるようにしておくことをお勧めする。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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