HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
127

不動産会社からホテル運営会社へ

アメリカで最初にホテル運営を行う会社(ホテルマネージメントカンパニー)を設立したのはウェスティンホテルだった。アメリカ全土の約8割ものホテルを倒産へと追いやったグレートディプレッション(世界大恐慌)の翌年にあたる1930年、シアトル在住の2人のホテルオーナーが、たまたまレストランで出会ったことからこの会社は始まった。2人は競合相手ではあったが、苦境を乗り越えるために、協力し合うことで合意。会計、広告、購買、予約、人事を複数のホテルで共有することで、経費軽減を図るという戦略の下、ホテルマネージメントカンパニーを設立した。

しかし、だからと言って、彼らのホテルマネージメントカンパニーに、ホテル運営を委託するホテルオーナーがすぐに出現したというわけではない。ウェスティンホテル自体、サンフランシスコのセントフランシスやニューヨークのプラザホテルをはじめとした多くのホテルを購入し資産会社となっていた。ヒルトンホテルも1919年に最初のホテルを購入してから、徐々にホテルを買収して数を伸ばし、1946年にホテルマネージメントカンパニーを設立した後も、ホテルの買収を続けている。その最たるものは、1954年のスタトラーホテルズの買収だった。111ミリオンダラーの買収は、当時の不動産売買では世界一の巨額取引となった。

ホテルマネージメントカンパニーがホテルのオーナーにならず、ホテルの運営だけに専念できるようになったのは1980年代に入り、ホテルが投資物件として頻繁に扱われるようになってからのことだった。以前のホテルと言えば、客室、宴会場、レストランの3点を揃えた場だった。レストランや宴会場は景気が悪くなると、大きなダメ―ジを受け、赤字経営へと導く。それではリスクが高すぎ、投資対象にはなり得ない。だが、昨今、宴会場もレストランもほとんど保有せず、主に客室からの売り上げで成り立つ不況に強いホテルが一般化してきた。また、アメリカのホテルの売値は、土地の値段ではなく、そのホテルがいくら利益を出しているかで決まる。よって、物価の上昇とともに、必ずホテルの値段も上がっていく。それが頭打ちになることはない。こうした変化によって、ホテルが投資対象となる時代が始まった。

投資家には、ホテル運営のノウハウはないので、ホテルを建てた後に、ホテルマネージメントカンパニーに運営委託をしなければならない。ニューヨークでは、数年毎にオーナーが代わっていくホテルも珍しくない。ホテルマネージメントカンパニーも利益を守るために、たとえオーナーが代わっても、ペナルティー無しではホテルマネージメントの契約を解除できないという決まりを作っている。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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