HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
113

スタッフの士気が造りだすサービスの差

大きなホテルでハイレベルのサービスを提供するのは容易ではない。ベルマンが荷物を部屋まで運ぶなどというサービスはあきらめて、ゲストに持って行ってもらうほうがいい。ベルマンが運べば部屋まで30分以上かかるかもしれないからだ。近頃、大型ホテルに泊まる人々はそれを理解し、自分で荷物を運ぶことが一般化している。マンハッタンには1700室以上の巨大ホテルが3軒ある。ベルマンのサービスが無くなった今、最初のサービスの顕著な差はチェックインをするときのフロントの対応に現れる。

Aが運営する大型ホテルでは、フロントに長い列ができることがほとんどない。チェックインが多い時間帯には、スタッフも多く配備され、必ずマネージャーが立ち「あのカウンターが空きましたのでどうぞ」と案内をする。マネージャーの目があるので、フロントオフィスクラークもさぼった働き方はできず、一人頭2分程度で処理をする。

一方、Cが運営するホテルでは頻繁に長蛇の列ができ、30分以上待たされることがよくある。フロントオフィスクラークの人数が少ない上に動きも鈍く、一人頭5分程度で対応している。見張るマネージャーはおらず、〇〇クラブに入っているメンバー専用カウンターに並んだ人は10分で終わるところ、一般のカウンターに並んだ人は30分かかるなどという状態が起き、その差に一般の人々は苛立ちを募らせる。

AとCの中間にあるBは、Cほど悪くはないが、フロントの前にはよく列ができている。混んでいる時間帯に適切な数のスタッフを配置していないことと、目を光らせるマネージャーがいないことでAとの差ができる。Aは労働組合に入っていないホテルなので、優秀なスタッフを確保することができるし、サービスレベルの低下を引き起こす労働組合との決まり事もない。だが、これほどの差は労働組合に入っているか否かの差だけから生まれるものではない。

BもCもホテルを愛した人が設立したホテル運営会社だった。だが、投資会社がオーナーとなってから、ホテルを愛する精神がオペレーションに反映されることが薄くなってしまった。利益をもとめてサービスカットを行う投資会社のビジネス手法。一方、ハイレベルのサービスでリピーターを取り込み利益をあげようとするホスピタリティービジネス手法。ホスピタリティーの士気に富んだ人は後者の職場を選ぶようになる。結果、投資会社がオーナーのホテルでは、ゲストへの気配りをするスタッフが少なくなる。ホテルのサービスの優劣は、そこで働く者の士気によって大きく変わる。その典型的な例をこれらのホテルのオペレーションに見ることができる。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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