HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
107

リピーターを獲得するための努力

アメリカのホテルにとって、リピーター(常連客)を増やすことほど大切なことはない。昨年のニューヨークのホテルの年平均稼働率は89%。リピーターが多いホテルは、さらに高い稼働率を記録。例えば、宿泊ゲストの8割がリピーターという、ロバ―ト・デニーロが保有するグリニッジホテルの平均稼働率は95%を超えた。リピーターほどホテルの利益を確かなものにしてくれる存在はない。だから、優れたマネージャーが働いているホテルでは、常日頃からリピーターを育てる努力を続けている。

私が働いていた当時のプラザホテルでも様々な方法を実施していた。例えば、レストランのチェック(伝票)を渡すときに添える一枚の紙。そこには、お礼の言葉以外に、「新しいメニューやイベント情報をお届けしたいと思いますので、よろしければ、Eメールアドレスをご記入いただくか、名刺をお残しください」という案内があった。Eメールで送られてくる案内に目を通すアメリカ人は0.2%にすぎないという統計がでている。だが、自発的にメールアドレスを置いていった人の多くは、「プラザホテルのレストラン便り」という件名のメールが流れてくれば、目を通してくれる。さらに、「コメントがあれば、お残しください」という欄も用意して、ゲストの声を聞く手段として利用した。苦情でもあがらなければ、通常、ゲストの声を聞くことは難しい。このたった1枚の紙が、リピーターを育て、ゲストの求めているサービスを研究するための道具として役立っていた。

もう一つの例を挙げると、“ロビーグリーター”と称し、マネージャーが毎日午後4時から午後8時まで、交代でロビーに立ち、ゲストに話しかけることを行っていた。時間がありそうなゲストに話かけ、チャンスがあれば名刺を渡す。そして、先方の名前を聞き、後から、部屋にメッセージをつけてフルーツなどを送る。ゲストはそのマネージャーを身近な知り合いと感じるようになり、次にニューヨークに来るときには連絡をしてくるようになる。

こうした努力を行ったのは、ゲストと身近な関係を築くため。身近な関係をつくれなければ、大手ホテルチェーンの“泊まれば泊まるほど得点が付くプログラム”の魅力を超えることができないからだ。

昨今、人々は、ありきたりなサービスに飽き、感動、感激、親近感などを与えてくれるホテルを求めるようになってきた。これが、稼働率や利益率で大手ホテルチェーンを抜く独立運営のホテルの台頭をまねいた主な理由だった。どのようにしたら、独立運営のホテルでも、大手チェーン傘下のホテルに勝てるかがわかってきた。これから、アメリカでは、独立運営のホテルが増えて行くことになるだろう。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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