Vol.
95
希望する部屋を取るための方法
「ハドソン川が見える部屋に泊まりたい」「エンパイアステートビルディングが眺められる部屋に泊まりたい」などというリクエストを挙げても、ホテルは確約をしない。その理由のひとつは、ホテルは予め部屋を割り当てていて、それをくずしたくないからだ。予約はパズルのように入り組んでいて、一つを外すと他も外すことになり、ときに大変な作業を引き起こす。
例えば、Aさんの部屋が摩天楼しか見えない123号室に割り当てられているとする。チェックイン時に「ハドソン川が見える部屋が欲しい」と言われると、フロントスタッフは、“ハドソン川が眺められる部屋で、まだゲストが入っていない部屋”を探すことになる。Aさんの旅程と同じ旅程のものが見つかれば、入れ替えるだけでいいから簡単だ。だが、同じ旅程のものが見つからないときは、Aさんを移動させることで、はじき出される予約ができることになる。はじき出された予約は、どこかに入れなければならず、ときにパズルのような作業だ。時間がかかる。労力がかかる。他のゲストを待たせる原因にもなる。だから、部屋に空きがあるとき、或いは、同じ旅程の予約があるときでないと、「残念ながら空きはありません」と言いたくなる。
こうした事情なので、ハドソン川が見える部屋が欲しいのであれば、前もってそこに割り当ててもらうようにするのが最良の手段。予約を入れたらすぐにホテルに直接連絡をして、希望を伝えること。きちんと対応するスタッフがいるホテルならば「確約はできませんが、できる限りの努力はいたします」という返事が戻ってくる。そのとき、部屋はハドソン川側に割り当てられている。
それでも、その部屋に前日から泊まっているゲストが急に宿泊延長をして、外されてしまうようなこともある。そのとき、システムができていれば、予約のリマークス欄に“ゲストはハドソン川側を希望”という情報が入っている。変更したスタッフは、それを見て、ハドソン川側の部屋を探す。時間があれば、パズルはできる。
アメリカのホテルのサービスを支えるものは優れたシステム。その次にスタッフ訓練。これをきちんと行っていないホテルのサービスは堕落したものになっている。希望があれば、遠慮なしにホテルに直接連絡をしてみることをお勧めする。返事が戻ってこないホテルならば、その程度のサービスしかだせないということを理解し、高望みはやめておこう。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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