Vol.
71
海外ホテルの常識は様々
先日、友人が来て、2000室ある大型ホテルに泊まった。顔を合わせるなり、開口一番、「このホテルはサービスが悪い!」と声を荒げた。なにを怒っているのか聞いてみると、ベルマンがバッグを部屋に届けるまでに30分もかかったという。私は言った。「2000室もあるアメリカのホテルで、迅速なベルマンのサービスを期待するのは無理だ」と。すると、彼は戸惑った顔をしながらつぶやいた。「だって、ホテルでは、荷物はベルマンに預けるのが礼儀だろう。。。。」と。
一流ホテルはイメージをとても大切にする。そこに泊まっているゲストも、優雅な雰囲気を期待して高いお金を払っている。だから、ロビーや廊下のパブリックエリアで、がらがらと荷物を引きずられると、雰囲気が損なわれるので困るのだ。そうしたホテルでは、荷物はベルマンに預けなければならない。私が働いていた当時のプラザのように800室もあれば、荷物が届くまでに20~30分はかかることもある。それは覚悟しなければならない。
だが、2000室もある大型コンベンションホテルとなれば、ロビーをどう見まわしても、優雅な雰囲気などない。多くのゲストは荷物をがらがらと引きずっている。ベルマンとて、チップを稼ぐために、人々が到着するのを待つ状態ではない。団体客の荷物を運ぶのに、汗を拭きながら動き回っている。忙しいときに、個人ゲストから1~2個の荷物を部屋に運んでくれなどと言われたら、かえって迷惑という顔さえされかねない。こうしたホテルでは、荷物を自分で部屋まで運んでも、誰からも文句を言われることはない。
日本と違い、アメリカのホテルは、最高の利益を出すために、最低限の人数で運営を行っている。忙しくなったときは、「時間がかかるのは仕方が無い」という一言ですませられる文化を持っている。ホテルが大きくなれば、それだけサービスに時間がかかる。待つのが苦手な人は、小さなホテルを選ぶべきだ。
日本のホテルと比較して、「なぜこれができない」と怒るのは、日本基準でものを考えている証拠。海外にでたら、国際基準に切り替え、その国の文化にあった思考回路に切り替える。そのためには、予めその国の事情を調べておくことが必要不可欠。知識さえあれば、さらに満足度の高い旅行を楽しむことができるようになるのだから。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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