HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
70

ホテルの新しい経営方法

概して、ニューヨークのホテルはレストラン経営に力を入れていない。一流ホテルであっても、館内に保有するレストランの数は少なく、「○○ホテルのレストランは超一流」といわれることはほとんどない。一方、日本の一流ホテルには、数多くのレストランがあり、それを維持することがステータスとされる。

この差が両国の文化の差を反映していることは言うまでもない。アメリカは強い資本主義の社会。利益率の低いことには力を入れられない。レストランは広いスペースを必要とする。ゲストが入らないときでも、スタッフを必要とする。長期保存がきかない食材を保有しておくことを必要とする。こうした条件を抱えながら、常に利益をだすことは容易ではない。また、ホテルだからといって、高値をつけることができないという事情もある。

アメリカには、厳格なマーケットプライス(市場価格)というものが存在する。拳大のフィレステーキは、並みのレストランでも、最高級レストランでも、30~50ドルの間。マーケットプライスを超えた値つけをすれば、人は近づかなくなる。日本のように、街のレストランで1500円が、高級ホテルになれば、12000円などということはありえない。ホテルというブランドを利用して飲食に高値をつけることはできないのだ。

こうした環境だから、コーヒーショップのみを用意し、多くのゲストが館内でとる朝食を主として利益をあげることになる。近頃では、4スターホテルでさえ、ルームサービスをやめるところが増えてきている。やはり、保存のきかない食材とスタッフを置いておくことがリスクとなるからだ。かわりに、ロビーに、軽食を買える売店を置くことで対処しているところがある。

ファーストフードショップを少しアップグレードした店にして、調理パン、スープ、サラダなどを売る。人が最も多く通る場所にあるこうしたショップの売り上げは、ルームサービスの売り上げよりも遥かに高い。何も買うつもりでない人々をも惹きつけて、売り上げにつなげられるからだ。これは、高い利益を生む、とても効率的な方法と言える。

格式よりも実益をとる。これがアメリカのホテル運営方針。それにより得られる恩恵のひとつは、働く人々の給与をあげて、スタッフの労働意欲をあげる環境をつくりだすこと。ここにアメリカのホテルが力強く繁栄してゆく理由の一部を見る。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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