Vol.
66
超一流の働き方
私は、プラザに入社するにあたり、スターウッドホテルズジャパンのトップの推薦をいただき、プラザのバイスプレジデントの面接を受けた。彼の名はトム。ドラルド・トランプ氏が、プラザを買収したときに、ウオルドルフ・アストリアから引きぬいた男で、当時、ニューヨークで最も高い給与を得ているホテルマンと噂されていた。
噂だけあり、仕事の手腕も、部下をリードする力も優れたすばらしい上司だった。彼の行動の基礎にあったものは、「これをしたら、こうなる」という先読みの力だったと思う。アメリカ人は叱られることに慣れていない。叱られれば、反省するよりも、反発心を持つ。ならば、どんなに腹が立ったとしても、叱らずに、彼らをコントロールする方法を探すことが得策となる。彼はそれをよく知っていた。
あるとき、一枚の「警告」が回ってきた。ホテルのスタッフは、エグゼクティブコミッティーメンバー(部長以上の役職を持つメンバー)を除いて、スタッフエントランスから出入りをする決まりになっている。スタッフエントランスにはガードマンがいて、空港のセキュリティーチェックさながら、赤外線探知機で荷物検査が行われる。営業部のスタッフはそれに反発し、守る者はほとんどいなかった。
その「警告」をミーティングの席で読み上げた彼は言った。「私もこれからは、スタッフエントランスを使うようにするから、みなも守ってくれ」こう言われては、さすがに、みなも守らないわけにはいかなくなる。彼は決して高いポジションから、スタッフを見ることはなかった。いつもみなと同じ扱いになるように自分を置いていた。
その後、プラザを運営しているホテルチェーン、フェアモントホテルズから、「ホテルマネージャー」というタイトルの男がやってきた。プラザのスイートに家族と暮らし、フェアモントホテルズ全体のオペレーションの向上を図るために働いていた。ホテルチェーンで見れば、彼はトムよりも上のポジションにいると言えた。40代半ばのこの男は演説がとても上手でスタッフを感動させる力を持っていた。彼からはオーラさえでているように見えた。だが、傲慢なところもあった。
ある日、全体ミーティングで演説をした彼は、我々に意見を求めた。だが、誰も手を挙げないとみるや、「それでも働く気があるのか!」と怒鳴った。怒鳴ることはトップに立つ者の行為ではない。彼の下にいる者は、委縮して力が出せなくなる。その後、彼の職権乱用気味な行いを見つけたフロントスタッフがCEOに通報。解雇処分となった彼は静かにプラザを去って行った。
演説が上手くても、どんなに仕事ができても、真のリ―ダ―にはなることはできない。真のリーダーになれる者は、バイタリティー溢れる行動力、正しい判断力、そして、誰からも好かれる人間性を備えていなければならない。最後の要素を欠いている者は、「出る杭」どまりになる。そして、いつか打たれる。
4月25日発売の新刊、「超一流の働き方」は、私が出会った超一流の人々から学んだことを集積した一冊。1人でも多くの方の参考になれることを願っている。
著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
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