Vol.
65
コンシェルジェの裏話
プラザに入社したとき、すぐに仲良くなったジェームズというコンシェルジェがいた。彼は、日本人の奥さんと暮らし、日本語を話すことができた。食事に誘われて、ついていくと立派なイタリアンレストランに入った。メニューもろくに見ずに、店が勧めるものをあれもこれもと注文する。ワインもためらいなしに取ってしまう。私はそっと財布の中を覗き、その場で支払うお金が足りなくなるのではないかと心配した。だが、店は勘定を持ってこなかった。彼はホテルのゲストにレストランを推薦する立場にいるので、たくさんの店から無料招待されていたのだ。
トライベッカにオープンする和食レストランから相談を受けたことがある。「どのようにしたら、プラザのゲストをうちのレストランに誘導できますか」私は、チ―フコンシェルジェと相談し、コンシェルジェをレストランに招待して味を知ってもらうことと、総客数にあわせて彼らにチップを払うことを提案した。
その後、宴会場予約を担当していたトニ―というスタッフが、コンシェルジェに移動した。顔を合わせるたびに「コンシェルジェはいいよ。なにしろチップが入るから」と言っていた。そんなにいいものなのかと、コンシェルジェデスクにくる人の数をざっと数えてみると、1人のコンシェルジェが対応する人数は1時間に20~30人程度。1人から2ドルのチップをもらったとして、時給40~60ドル。さらに、レストランから支払われるチップもある。トニ―の言っていたことがよく分かる。
彼らは電話を2本以上持っている。忙しいときには、左右の耳に受話機をあてて、レストランの予約をしながら、ミュージカルのチケットを取ったりしている。さまざまな知識を持っていること、何人もの人と同時にコミュニケーションが取れること、どんなに忙しくても冷静に対応できることなど、彼らに必要とされるものは多い。誰にでもできる仕事ではないから、収入が多くて当然と言える。
コンシェルジェでは、雨の日に備えて傘を貸しだししていたり、手紙を送るための切手を用意していたりもする。まだ到着していないゲストへの贈り物などもあずかってくれる。彼らは、ホテルのなんでも屋的存在であるから、ホテルはホスピタリティー精神の強いスタッフを厳選することになる。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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