Vol.
62
固定客を確保するための努力
今年もまたニューヨークのピークシーズンがやってきた。12月1,2,3週の3週間がもっとも混みあう時期だ。夏のスローシーズンに300ドルで予約できたホテルが、900ドルもの値段をつける期間となる。同時に、ホテルは、毎日、誰をアップグレードしようかと頭を痛めているときでもある。
これほど値段が高くなると、スタンダードカテゴリーに予約が集中する。デラックス、さらにスイートなどの予約は激減。だが、それらを余らせておけば、100%に到達できないので、スタンダードカテゴリーをオーバーブックさせて、その上のカテゴリーにアップグレードを行う。だから、多くの人がアップグレードを楽しむ機会を得る。アップグレードは、次に利用してもらうための最高のチャンスだから、最も効果的なゲストを選択しなければならない。
アメリカのホテルは日本と違い、固定客の割合がとても低い。だが、固定客が利益率を伸ばす上でとても重要なため、必至になって固定客を集めるシステムを構築している。私がウエスティンホテルに入社した1980年代初頭、「すべてのゲストはVIP」という考えの下、ゲストを差別化するプログラムなど存在しなかった。だが、固定客獲得の強い流れが起こり、どのホテルチェーンも「フリクエントプログラム」という、利用回数によりサービスレベルが異なるプログラムを作り始めた。そればかりか、ホテルが多くあれば、それだけ固定客獲得に有利であるということから、ホテルチェーンの同士の合体まで始まった。
たとえば、スターウッドホテルのフリクエントプログラムに入っている人は、どの都市でも、スターウッドホテル傘下のホテルに泊まりたいと思うようになる。それによりランクがあがり、より快適なサービスを受けられるようになるからだ。ホテルとしては、それを促進するために、なるべく多くの都市にホテルが必要だ。それも、ランクの違うホテルがあったほうがいい。
そうした流れで、ウエスティンホテルだけを保持していたスターウッドは、後に、シェラトンホテルを買収する。さらには、Wなどという新しいホテルチェーンまで作り上げた。ヒルトンもマリオットも同時期に多くのホテルチェーンを買収し、巨大ホテルチェーン群雄割拠時代が生まれた。
日本のホテルが結婚式を取ることで、毎年、結婚記念日に家族で利用してもらおうという戦略を取っているように、アメリカのホテルも「記念のホテル」となることで、次に利用してもらおうという方針を取る。だから、「誕生日のお祝いにきた」、「宿泊期間中に結婚記念日が重なる」などという理由があるゲストをまず選んでアップグレードを行うことが多くなる。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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