HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
61

すばらしき労働環境を造りだすアメリカのシステム

「Hey, Kenny, How are you? ケニ―、元気か?」先日、ヒルトンニューヨークに行ったら、ベルマンから握手を求められた。以前、プラザでベルマンをしていた比較的若手のスタッフだった。「ここで働いているとは知らなかったよ」彼は最初ルームサービスの配達係として働き、後にベルマンに移動した。「俺だけじゃないよ。ほら、あそこにいるドアマンもプラザ出身だよ」「彼はドアマンではなかったよな。確か。。。。」顔は覚えているのだが、どの部署ではたらいたかを思いだせない。「プラザではルームサービスで働いていたよ」「ああ、そうだった!」

プラザが2005年から改装のために3年間閉館したことは、多くのスタッフにとって不幸な出来事だった。だが、こうしたホテルの花形ポジションに就いている彼らを見て、私は嬉しさを感じた。

大卒でホテルに入る者は、最初からマネージャーになる。マネージャーは労働組合には入れない。また、残業をしても残業代はでない。常に与えられたノルマをどれだけこなせるかを見られ、力不足の場合にはレイオフとなる。

一方、ドアマン、ベルマン、ウエイター&ウエイトレス、ハウスキーパーなどオペレーション支えているスタッフの多くは労働組合に入る。レイオフは一時的解雇にすぎず、業績が良くなれば再び職に戻る権利を確保している。そのかわりマネージャーにはなれない。そうした彼らの中でも、時間とともに昇進して行く者もいれば、いつまでたってもうだつが上がらない者もいる。彼らの間には明らかな差がある。昇進してゆくスタッフはなんといっても態度がまじめ。仕事に対して一生懸命な姿勢をいつもとり続けている。

マネージャーと違って、数字による査定を持たされない彼らは、勤務態度が査定の対象となる。転職をするときは、必ず“リファーラル”という、自分を推薦してくれる人を数人挙げることを要求される。勤務姿勢がまじめなスタッフは、リファーラルでよいコメントがでる。それがなければ、いいポジションに就くことはできない。だから、皆は声をかけあう。「マネージメントは私たちのことを見ている。きちんと仕事をしていれば、必ずいい職歴を残すことができる」と。

一方、マネージャーは、彼らからのサポートの強弱さによって、業績に差がでてくる。また、言動の悪さで、彼らから苦情があがれば、永久解雇のレイオフとなる。だから、つねに彼らが気持ちよく働けるように気を使っている。こうした体制なので、飲み会の席でも、仲間の悪口が酒の肴になることはほとんどない。

私はプラザでの10年間を通して、「明日は会社に行きたくない」と思う日は1日もなかった。そうした環境を造りだす、このアメリカのシステムにいつも感謝していた。

全てのバックナンバーを見る

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

著書紹介

超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

はえくんの冒険

(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

こちらもおすすめ

ホテリスタメルマガ登録