HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
60

ホテルマンは人を見ぬくプロ?

ベルキャプテンのホセが言った。「TUMIか Hartmannのバッグを持っているゲストは金持ちだ。」そのあとに続く台詞は、「だからベルマンは、そのゲストのバッグを運びたがる。多くのチップが期待できるからだ。」となる。

アメリカ人は、自分の身分にあった暮らしをする。ブランド品を買うのは、たくさんお金を持っている人だけ。庶民は、ブランド品は買わずに、身分にあったもので個性をつくりあげる。これは日本とは大きく異なる国民性と言える。

だが、逆に、この国民性が企業に背伸びをさせる。どの企業も仕事相手には、潤っている会社を選びたい。だから、企業家が最初にすることは、なるべく豪華なオフィスを用意すること。そこを訪問した人々が、「こんな豪華なオフィスを持っているならば、きっと業績がいいに違いない」と思い、パートナーとして選ぶ可能性が高くなるからだ。マンハッタンにあるアメリカ企業を訪問してみると、エレベーターが開いたところで、その贅沢なスペースの使い方に驚かされるものばかりだ。

服装も同様に、商談をするときは、なるべく高価なスーツ、靴、ネクタイ、時計を身につけ、商談成立の可能性をあげるように努める。ホテルもなるべく高級なところに泊まり、チャンスを見ては、相手をホテルに招待して好印象を与える。だから、私の出張者へのアドバイスは、「社内会議に出席するためならば、会社の規定にあったエコノミーホテルで十分。しかし、アメリカ企業との商談を成功させに行くのであれば、高級ホテルにとまるべき。予算があわないのなら、飛行機はエコノミーにすればいい。ビジネスクラスで飛んでエコノミーホテルに泊まるのは、優先順位が間違っている。」となる。

アメリカのホテルで働くスタッフは、ゲストを見ぬくプロでもある。裕福なゲストと見たら、より多くのチップをもらうために、サービスレベルをアップさせる。彼らの収入の大部分がチップから入ってくるのだから、それは当然のことなのだ。

さらにホセが言う。「だが、日本人は別だ。ルイビトンの鞄を持っているからと、ベルマンが期待に胸を膨らませて鞄を運んで行っても、戻ってきたときには、いつもしぶい顔をしているよ。」私は応える。「そう、これが日米文化の大きな違いなんです。」と。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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