Vol.
54
社会のあり様を映しだすホテル
「ホテルは景気の変動を如実に表す」と言われる。実際、プラザホテルの稼働率が下がり始めると、“そろそろ不景気がやってくるぞ”と、私たちはミーテイングで言いあった。そして、2か月もすると、案の定「レッセッション(不景気)が始まりました」とテレビのニュースで報道されたものだった。さらに、景気だけではなく、ホテルは世の中のあり様をも映しだしていると私は思っている。
アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からないという数字を世界経済協力開発機構(OECD)の調査報告が出している。日本の労働生産性はOECD参加33カ国中、とても低い水準にある。生産性が低ければ、給与は低く、長時間労働となることは避けられない。GDP(国内総生産)で、日本のひとつ下にいるドイツと比べると、サラリーマンの平均年収は、ドイツのほうが1180ドル高く、勤務時間は年間314時間も少ない。1日8時間働くとすると、40日近く働かないことになる。長時間労働は家族で一緒に夕食を取る時間を奪っていく。それが、ユネスコの調査が出した「日本の子供が先進国で最も孤独を感じている」という結果に結び付く。29.8%もの日本の子供が孤独を訴え、2位のアイスランドの10.8%を大きく引き離している。日本の低い労働生産性はさまざまな社会問題を引き起こしているのだ。
なぜこんなにも労働生産性が低いのか?それは日本特有の「おもてなし文化」に深く関係している。お客様のことを最優先して考えるという姿勢が生産性を上げるネックになる。ホテルで最も大きな経費は人件費。利益を上げるためには、スタッフの時間はお金という意識を強く持つことが必要。だが、ゲストから苦情があがれば、たとえそれが理不尽なものであろうとも、時間をかけて付き合う。スピーディーなサービスを行うために、朝食には10人のゲストにつき1人のウエイター&ウエイトレスを配置する。アメリカならば、理不尽な要求には付き合わず、朝食には15人のゲストにつき1人しか置かない。
なぜアメリカと日本はこうもサービススタイルに差があるのか?その理由のひとつは、主義の違いにある。アメリカの一流企業のCEOの平均給与は、その会社の平均給与の263倍という数字がでている。能力があれば、それだけ多くのお金を儲けられるという社会を造りだしたものは強い自由主義の力だ。一方、能力の差が大きな格差をつくらずに、同期入社ならば同レベルの給与を取るのをよしとするのが日本のスタイル。それは半ば社会主義の考え方だ。
アメリカでは、どのようにしたら、より多くの利益を上げられるかというところからサービスを考える。それに対し日本では、どのようにしたらよいサービスを提供でき、その報酬としてお金を払ってもらえるかという思考になる。主義の違いが、考え方の順序の違いを引き起こす。
今、グローバリゼーションにより世界中の企業が日本で市場争奪戦を繰り広げる時代が到来した。生産性を上げることができなければ、日本企業は外国企業の門下に下る。ではどのようにしたら、生産性を上げることができるのか。その鍵は日米のホテル運営の比較に見ることができる。それを訴えたくて書いた原稿が、「なぜ“お客様は神様です”では一流と呼ばれないのか」というタイトルで4月下旬に出版されることになった。多くの方々の参考になれたら嬉しく思う。
「なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか」(著:ケニー奥谷)
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。
(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
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