Vol.
51
アメリカ人のうらやましいプロ意識
「2時間後の3時から1時間、お借りしている○○ルームでミーティングを行いたいので、テーブルを出して、コーヒー、紅茶、クッキーなどを用意してもらえないでしょうか?」宿泊している団体から、このような急な依頼が入ることがしばしばあった。○○ルームはその団体に24時間ベースで押さえられている部屋。掃除をしてテーブルを並べて、飲み物とクッキーを用意するだけだから、2時間あればできるはず。この程度のことに、「できません」とは言えないと私は判断する。だが、手配するスタッフの都合を聞かずに受けてしまうことはできない。「すぐにご連絡させていただきますので、少々お待ちください」と言って電話を切った。
依頼を伝えると、手配を担当するコンファレンスマネージャーは“しかめっ面”をした。“How come we need to accept such a short notice request? I am not sure if we can make it in time.”<なんでこんな急な依頼を受ける必要があるんだ。間に合うかどうか、わからないぞ。> アメリカの組織はスケジュールを立てて動くから、余分なスタッフをおいていない。急にはスタッフを集められないのだ。
彼はスタッフを管理している“キャプテン”に電話をした。結果、“OK, we can do it.”< 大丈夫のようだ。>という返事がもどってきて、私は胸をなでおろした。だが、スタッフは時間通りに来られずに、結局、準備が整ったのは3時15分。1時間のミーティングで15分も遅れたのだから、ゲストは黙ってはいない。「なんでこんなに遅れたのですか?こまるじゃないですか!」私はただ謝ることしかできない。だが、コンファレンスマネージャーは言う。 “Don’t worry. Such a short notice request often causes troubles.”< 気にするな。このような急な依頼はとかく問題をひき起こすものだ。>さも急な依頼をしてきた団体側に問題があるという態度だ。 “We should be blamed because we could not keep our promise.” <責められるのは我々だよ。約束を守れなかったのだから。> “ Easy, easy. Don’t mind“<.もっと気楽にいけよ。>と、彼は私の肩をポンと叩いた。今度は、私が“しかめっ面”をすると彼は言った。 “Never even think of Harakiri.“ <絶対、はらきりしようなんて考えるなよ。>
アメリカのホテルで働いていて、私が最も手に入れたいと思ったものは、こうした彼らのめげない明るさだった。無責任と言ってしまえばそれで終わりだが、責任を感じて落ち込んでいても、なにも生まれないことも事実。沈んでいれば、他の失敗をする可能性もあがる。だから、お互いに失敗を責めず、起きてしまったことは仕方のないこととして忘れる。それで、次の仕事にダメージを与えないようにする。これが彼らのプロとしての意識でもあった。
こちらもよく読まれています
著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!
「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。
(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。
サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする
サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。
「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。
アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。
こちらもおすすめ
海外ホテル予約 人気都市
私が見たアメリカのホテル
人気記事ランキング
-
1位
第2回チップの誤った常識
-
2位
第27回枕チップなど必要ない?
-
3位
第89回アメリカ旅行の注意点
-
4位
第81回アメリカのホテルで守るべきマナー
-
5位
第102回人材が最も大切なアメリカのホテル
-
6位
第68回チップの額
-
7位
-
8位
第69回アップグレードを狙うゲスト