Vol.
24
消費者の厳しい目
「世界一歓迎される観光客は日本人」先日またその話題が取り上げられていた。理由としては、
1「ホテルへのクレームが少ない」
2「マナーやエチケットを守り礼儀正しい」
3「ホテルの部屋をきれいに使う」
があがる。
私の海外ホテル20年間の経験からしたら、かなりその通り。だが、1に関しては“物言い”がつく。旅行会社、飛行機会社、ホテル会社で働く日本人にアンケートを取ったら、「そんなことはない!」と憤りの声があがるのは間違いない。理由は「言葉が喋れなく、外人が相手となれば萎縮して文句など言えるはずがないじゃないか」というものだ。
英語で外人相手にクレームをあげられる日本人はわずかしかいない。しかし、あいだに旅行会社などの日本人が入った場合には、彼らがクレームを一身に背負って、ときにはその理不尽さにあきれ返ることがある。だが、それも無理ないだろう。日本には、消費者の厳しい目を育てる土壌があったのだから。
ほぼ単一民族国家という類まれな条件の下、人々は似かよった常識を持つことができた。常識に任せていても社会は動いたから、人々は自分の感性で物事を判断して行く。必然的にさまざまなことがらに厳しい目を持つようになる。それは“消費者の厳しい目”や“有権者の厳しい目”などと言われるがごとく。
一方、アメリカのように異民族が集まった国家では、社会を人々の常識に任せるわけにはいかず、法律で縛るしかなかった。人や企業を裁くのは法律であり、人の感性や常識ではない。ここにたいがいのことに関して、人が厳しい目を持たない文化が育った。
食品メーカーで問題が起きたら、日本では消費者が一斉に離れてしまう。アメリカでは人々が離れるのではなく、法律が厳しい処分をくだす。総理大臣がハレンチ問題を起こしたら、国民は許さないから辞職する以外の道はない。アメリカなら、大統領がハレンチ騒動を起こしても、法律が有罪としなければそのままとなる。両国の間には、人の目の厳しさに大きな違があるのだ。
クレームをあげるとき、日本人のこうした厳しい目が理不尽な要求を求めてしまうことがある。だが、アメリカのように法律にすべてをゆだねる国では、理不尽な要求は通らない。理不尽な要求が通らない国で、理不尽な要求をだせばどうなるか。板ばさみになった日本人はたまらない。「ここは日本じゃない。そんな要求がホテルに通るわけないじゃないか!」の一語となる。
日本人が“世界一”という評価を受けるのは誇るべきこと。だが、その裏にはこうした条件がついているということを忘れず、消費者としての厳しい目をそのまま海外に持ち出さないようにするべきだ。日本人が間に入っている場合には、結局は日本人を苦しめることになるだけなのだから。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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