HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
22

新型インフルエンザ体験記

私はニューヨークに暮らしている。その私が先日風邪をひいた。喉がいたくなり鼻水がでて、熱も37度5分まで上がった。だが、熱は1日で下がり、その他のわずらわしい症状も治まるまでに3日程度だった。
これはひと足早い夏風邪だと思っていたら、少し遅れて子どももほぼ同じ症状をうったえだした。熱が38度5分まであがったので医者に連れて行ったところ、診断結果は「Flu」。つまりインフルエンザ。結局、私と同じく、熱は1日で下がり3日で完全回復した。それで初めて、私は「毒性が低い」という意味を理解した。「症状が軽いということなんだ」と。
学校でも、私の周囲でも同じ症状を患った人がいる。これならば、「ニューヨークで新型インフルエンザが蔓延している」と日本で報道されるのもうなずける。だが、通常健康を保っている人にとっては恐れるに足らずというのが私の実感だった。
もちろん、ニューヨークに住む人々も殺菌ジェルで手を消毒する回数を増やしたり、感染者に近づかないようにしたりして予防を心がけている。だが、所詮、夏風邪と大して変わらぬ程度の症状。私の知る限り、それが原因で普段の生活を大きく変える人はいない。

日本でこれだけ新型インフルエンザが大騒ぎになった原因の一つには、やはり誤解があったのではないかと思う。「普通のインフルエンザと比べて症状が軽い」という理解が不十分だったのではないだろうか。
最初「毒性が弱い」と聞いて私はどういうことなのだろうかと思った。「症状が軽い」という説明であれば、もっと明確に理解できたと思う。また、死亡者の数をだす際にも、とくに恐ろしいという印象だけが残らないように、過去に流行したインフルエンザとの比較を数字で並べればよかったと思う。

日本の旅行会社で働く友人が「すべての団体がキャンセルになってしまった」と嘆きのメールを送ってきた。秋に南米に行くのを楽しみにしていた知人が「とても残念だけど、取りやめにしました」と悲しんでいた。大手旅行会社の中には損害額が100億円を超えるところがあると聞く。日本経済に与えた打撃は小さくない。報道の仕方によっては、ダメージを抑えられたのではないかと残念に思うのは私だけだろうか。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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