Vol.
13
労働組合の力
ニューヨークのメジャーなホテルはユニオン(労働組合)に加盟している。ユニオンはときとしてサービスの足かせとなる。
「いらっしゃいませ。お疲れさまでした。」と、私は頻繁に来る顧客を迎えた。大きな荷物が一つタクシーから下ろされた。私はベルマンを探したがどこにも見当たらない。
「荷物はあとでベルマンに届けさせますから、ここで預からせてください。」
「待つのは大変だから、自分で持ってあがります。」
まずいことになったと、私は心で舌打ちをした。知り合いを迎えておきながら、彼が荷物を運ぶのをただ見ていることはできない。そんなことをしたら、彼からあまりにも不親切な人と思われてしまう。
だが、だからといって、代わりに荷物を運ぶこともできない。それはユニオンとの契約によって、禁じられているからだ。私が運べば、ベルマンにチップが入らなくなる。彼らからお金を稼ぐ機会を奪ったことになって訴えられてしまう。
大きな団体が早朝にチェックアウトするときも、不満とされることが起きた。その団体は6時に出発することになっていた。部屋数が100もあるので、荷物を下ろすには1時間半かかる。4時半からゲストは荷物をまとめてベルマンを待たなければならない。
「そんなに早くから起きるのは大変なので、各自、自分で荷物を運ぶことにしますよ。」
とても格好の悪いことだが、それも仕方のないことだとあきらめた。だが、了解を得なくてはならないことがある。
「ベルマンを使わなくても、荷物ひとつにつき1ドル50セントが請求されます。」ということだ。
さすがに、「冗談じゃないですよ。ホテルがすばやく荷物を下ろせないから仕方なしに、ゲストが自らするのです。それにお金がかかるなんて!」
だが、これもユニオン・スタッフの利益を守るための契約だから変えられない。
さらに、ユニオンがストライキを起こすと、ニューヨーク中の全てのユニオン・ホテルが麻痺する。1990年代半ばに一度起こり、私はルームサービス係りとなり食事を配達したことがある。そのときは3日程度で終わったが、過去には3週間以上つづいたことを記す記録も残っている。
こちらもよく読まれています
著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!
「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。
(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。
サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする
サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。
「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。
アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。
こちらもおすすめ
海外ホテル予約 人気都市
私が見たアメリカのホテル
人気記事ランキング
-
1位
第2回チップの誤った常識
-
2位
第27回枕チップなど必要ない?
-
3位
第89回アメリカ旅行の注意点
-
4位
第81回アメリカのホテルで守るべきマナー
-
5位
第102回人材が最も大切なアメリカのホテル
-
6位
第68回チップの額
-
7位
-
8位
第69回アップグレードを狙うゲスト