ローマ様式
アーチやドームの出現により、小さな材料で大空間が建造可能に。
ローマの代表建築「コロッセオ」。柱の飾りにはギリシャ様式が見られます。
ローマ様式を学ぶ
歴史のおさらい
ヨーロッパの旅を10倍楽しくしてくれる素養は、1. 聖書、2. ギリシャ神話、3. シェイクスピア、 と言われます。これに加えて4. ハプスブルク家、5. 建築様式の知識があれば“鬼に金棒”、文化の懐の奥の奥のほうまで見えてきます。
さて建築様式の2回目は、古典建築の両雄のもう一方、ローマ建築です。ローマ時代の始まりは、紀元前753年のローマ市の誕生まで遡ります。紀元前509年には共和制へ移行し、その後さまざまな変遷を経て、最終的には1453年に東ローマがトルコに滅ぼされるまでおよそ2000年間も続きました。
一方ギリシャは、紀元前146年にローマが地中海を統一するまで続きます。つまり紀元前は、数百年に渡りギリシャとローマは同時に存在したのです。
ローマの技術革新
建築様式の歴史の上では、ローマの時代に建築・土木技術上の画期的な技術革新があります。それが a)アーチ b)ヴォールト c)ドーム の出現です。
前回ご紹介したように、ギリシャ建築では柱と柱の間の距離はその上に掛け渡す石の大きさで決まりました。ですから、この様式で大きな部屋を作ろうとすると巨大な石が必要になるか、もしくは部屋が「柱だらけ」になるかのどちらかでした。
しかしながら、ローマ人の発明した上記の新技術は、小さな石材(やレンガ等)を組みあわせることで巨大な空間に屋根を掛け渡すことが可能になったのです。それらの特徴を最もよく表している例として、以下の3つをご紹介しましょう。
(1) ニームの水道橋 (ポン・デュ・ガール)紀元前22年
ここでは、3段になった「アーチ」を見ることができます。ところで、この橋はどのようにして作られたのかわかりますか?まずは木材で錦帯橋(岩国)のような枠組みを作り、その上に石を積んで、その後に木製の型枠をはずすとあのようなアーチの形ができるのです。
(2) コロッセオ(コロセウム)紀元80年ごろ
アーチが奥行き方向に連続するトンネル状、カマボコ状の構造を見ることができます。これが「ヴォールト」です。ちなみに、コロッセオの柱にはギリシャ建築の成果が見事に採り入れられています。拡大写真をご覧いただきますと、1階の柱がドーリア式、2階の柱がイオニア式、3階の柱がコリント式になっています。このあたりも建築様式がわかっていると楽しめる部分ですね。
(3) パンテオン 紀元120年ごろ
ここではアーチの回転体、お椀型の構造をご覧いただけます。これがご存知の「ドーム」というわけです。
この時代になると技術革新が進んで、パンテオンはなんと直径43.2m、ちなみに高さも43.2mという大空間を造りだしています。しかも頂部にはハイテク技術を誇示するかのように、ご丁寧に直径7mの穴が開けられています。
ローマ様式を取り入れたホテル
ローマ様式の特徴を採り入れたホテルを、海外から2つご紹介しましょう。
シーザーズ パレス ラスベガス ホテル & カジノ(ラスベガス/アメリカ)
ラスベガスのストリップ(大通り)に面して並ぶ巨大ホテルの一つが、この「シーザーズパレス」です。
「シーザー」は紀元前1世紀にローマの支配者だった人ですから、ホテルの名前からしてもうほとんどローマですが、実はホテル本体よりも、あとから増築されたショッピングセンター「フォーラム・ショップス」の方がよりローマを強調したつくりになっています。
「フォーラム・ショップス」は室内の大空間を持つインドアモールとなっていて、ヴォールト型の天井にプロジェクターで様々な空の色を投影します。モールの要所にはドーム天井になった広場(フォーラム)があり、中央部のロータリー状になった場所にはローマ彫刻が設置され、それが一定時間ごとに立ち上がったり演説を始めたりというアトラクションも用意されています。
大通りに近い部分にはパンテオンを模したホール「The World of Caesar」もあり、ローマの雰囲気を盛り上げています。
グランド ホテル パレス(ローマ/イタリア)
ローマの街で本物のコロッセオの北約1.5km、あの『ローマの休日』でへプバーンがアイスクリームを舐めていたスペイン広場の東約500mのあたりに、「あれ、ここにもコロッセオ?」と錯覚しそうなシルエットのホテルがあります。それが、「グランド ホテル パレス」です。
ほんものより小さめですが、おおらかに湾曲する壁面、建物外周に連続するアーチに(純粋種ではありませんが)「ローマ建築」の雰囲気が漂っています。
構成・制作監修
栗田 仁(くりた じん)
建築家・東海大学講師。学生時代のヨーロッパ一人旅5週間以来、旅にはまる。世界の終着駅建築、庭園、公共交通機関(とりわけ新世代高性能路面電車LRT)に格別の興味をもっている。著書は世界35の街を描いたエッセイ『街はいつでも上機嫌』(静岡新聞社)ほか。