Vol.
156
アメリカのホテル文化 VS 日本の宿泊文化
オリンピックを翌年に控えた1963年、東急ホテルグループがヒルトンホテルズインターナショナルホテルとマネージメント契約(ホテル運営契約)を結んだ。目的は、海外からの渡航客を受け入れるためのインターナショナルホテルを建てること。現在、キャピトルホテル東急がある地に建設された東京ヒルトンホテルは日本初のアメリカ系インターナショナルホテルだった。
当時は、ヒルトンホテルズとウエスティンホテルズがアジア地区での拡張を争っていたとき。ウエスティンホテルズはシンガポールにシャングリラホテル、バンコクにデユシタニホテルを建設してマネージメント契約を行い、香港ではミラマホテルとマネージメント契約を行った。だが、日本ではヒルトンホテルズの後塵を拝すことになった。
他のアジア諸国では運営契約を取得できたにもかかわらず、日本でできなかった理由は、海外からの渡航者数がまだ40万足らずと少なかっただけでなく、日本が植民地にならなかったことが一番の理由だったと言える。日本にはいにしえの昔から日本独自の宿泊文化があり、それが江戸時代の参勤交代を経て発展。アメリカのホテルマネージメントなどなくても、十二分にホテルを運営するノウハウが育っていた。一方、他のアジア諸国は欧米の植民地となっていたため、インターナショナルホテルチェーンをオープンさせることが自然の成り行きだった。
1985年、「プラザ合意」により円高が始まり空前の海外旅行ブームが訪れると、アメリカにある豪華ホテルチェーンを多くの日本人が体験した。日本企業でホテルのオーナーになることを計画していた会社は、ここぞとばかりにアメリカ系ホテルチェーンを導入することに熱を入れた。1994年、ウエスティンホテル東京とパークハイアット東京がオープンしたことを皮切りに、東京でも外資系ホテルの進出競争が勃発。そして、今、日本全国の大都市を見回すと、外資系ホテルの群雄割拠時代となっている。
本来、日本が育てあげた宿泊文化には、アメリカ系ホテルチェーンでは出せない味わいがある。ニューヨークを見ていると、既にホテルチェーンが運営する従来のホテルは飽きられ、他に類を見ない個性的なブティックホテルが隆盛の時を迎えている。今こそ、これぞ日本の宿泊文化の象徴というものが脚光を浴びる時代。日本国内では、外資系ホテルに押されているが、逆に、アメリカでは、日本の文化に染まったホテルが花を咲かせられる絶好のチャンスを迎えていると思う。
2020.11.19公開
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

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