HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
117

大手ホテルチェーンがロバート・デ・ニーロに敵わない理由

夏はニューヨークのホテルにとって受難の季節。おおよそニューヨークのホテルの7割はビジネスマンで埋まるから、出張が減るバケーション期間中は予約も減る。春や秋には500ドル以上で予約されている部屋が200ドルを下回ることもあるほどだ。

この時期にホテルの真の営業戦略の成果がわかる。ホテル不足なときは、人々は第二、第三希望のホテルに泊まることを余儀なくされるから、どのホテルも好成績を得る。だが、閑散期には、第一希望のホテルだけで部屋数は足りる。夏に堅調な結果を出しているということは、真に人気があるということの証となる。マンハッタンに数多ある高級ホテルの中で、最高の成績を維持しているのはグリニッジホテル、ロバート・デ・ニーロがオーナーのホテルだ。

大手ホテルチェーン傘下のホテルと違い、この独立運営のホテルには、世界中を網羅する予約ネットワークはない。他の都市の同系列ホテルに泊まって貯めたマイレージで、VIP特典を受けられることもない。2008年4月にオープンしてまだ10年たらず。運営ノウハウがたくさん蓄積されているわけでもない。にもかかわらず、大手ホテルチェーンのホテルを遥かに引き離す成績を生み出す。その理由はどこにあるのか。

宿泊してみれば分かるが、一言でいえば、他のホテルでは経験できないサービスや驚きや絶え間ない新鮮さがあるということ。ホテル内の空間は全て宿泊ゲスト専用となっていて、宿泊者以外はロビーに入れない。ロビーは部屋の延長となり、食べたり飲んだり仕事をしたりと、気楽に過ごせるプライベート空間になる。中庭のバーに座ったゲスト、或いは、中庭に面した部屋に泊まったゲストを驚かせるものは、隣りのビルの壁に描かれた巨大なジェームズ・ディーンの絵。合計88ある客室は全て装飾が違い、泊まる度に新鮮さを感じさせる。地下は250年以上前に存在した日本の家屋に使われていた木材で装飾されている。そこにあるプールはまるで映画のセットのようだ。顧客管理も素晴らしい。2回目以後のゲストには、好みに合った豪華なアメニティーがウエルカムカードと共に送られる。

ファイブスターホテルを求めるゲストに限って言えば、ホテル選びに料金は関係ない。“払った分だけ楽しい思いができればそれでいい”というゲストが圧倒的多数を占める。だから、“ケチ”な印象を与えるサービスは微塵も見せてはいけない。ゴージャスな手配にかかる経費は客室料金を上げることでカバーすればいい。中途半端なサービスは“経費かけて心得られず”という最悪の結果を招くことになる。極上の思い出で満たされれば、人はホテルに直接連絡をして次の予約を入れるようになる。“他のホテルも試してみよう”などという浮気心も生まれない。これを成功させているのがグリニッジホテルなのだ。

昨今、時代の流れは早く、“安全で便利で快適なことが大切”という従来のホテルの在り方に満足できなくなった人々を作り出している。だが、ホテルマンとホテル経営者の多くは、そうした流れについて行けず、過去の経験を活かした従来通りの手法を極めようとする。それでは、新しい価値を求めているゲストの心を捕まえることなどできない。豊富な経験や優れたノウハウが、かえって足を引っ張る結果になっている。ここに大手ホテルチェーン運営のファイブスターホテルがグリニッジホテルに勝てない理由がある。

今、ホテルを運営する者たちに最も必要とされていることは、時代の流れをしっかりと読み、自分の運営方針が遅れたものにならないようにすることだ。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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