HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
114

時の流れに見る日本とアメリカのサービス進化の違い

プラザホテルに着任してすぐに私は上司にあるものを求めた。
「日本人ゲストは他の国のゲストとは違いがあります。このホテルのやり方をそのまま当てはめていては、日本人ゲストは増えません」
「どう違うんだ?」
「日本のホテルのほとんどは戦後に建ちました。窓を開けたら、向こうの部屋の中が見えるというような構造のホテルはないのです。この点で、プラザホテルとは大きく違います」
「そうした部屋には満足できないということか?」
「そうです。そこで、無理を承知でお願いしたいのです。私に部屋を割り当てられるシステムをください。できる限り、日本人ゲストを景色のある部屋にいれるように操作したいのです」
「それが必要というのならば、なんとかする。だが、他のマネージャーたちには伏せておいてくれ。そんな武器を君がもっていると知ったら、皆が不公平だといいだすからな」
上司から承諾を得ると、私はフロントオフィスに向かった。ゲストに部屋を割り当てるのはフロントオフィスの仕事。私が窓のあるいい部屋ばかりを日本人ゲストに押さえて、「Do not unblock」(この部屋にはタッチするな)としてしまえば、フロントオフィスの仕事はやりづらくなることは明白だ。だから、予め合意を得ておく必要があった。
「わかった。ケニーだけは特別に許そう」フロントオフィスは、私が頻繁に日本人ゲストから、眺めのことで苦情を受けて、部屋を移動させるのに時間をかけていることを知っていた。だから、話し合いはスムーズに進んだ。

私は805室あるプラザホテルの全ての部屋の特徴と傷み具合を把握していた。そして、できる限り多くの日本人ゲストに、私が「合格点」を出す部屋を割り当てていた。さらに、当日は、到着前に部屋に不備がないかを点検した。また、知り合い、知り合いから紹介されたゲスト、ロビーで話す機会を持った宿泊ゲストには、手紙を添えてフルーツやワインなどの贈り物をした。知り合いがホテル内にいるとなれば、彼らは頻繁に電話をしてくる。「〇〇が欲しいのですがどこに行けば買えますか?」「〇〇に行くにはどうしたら早く行けますか?」様々な情報を提供したり、手配をしたりして、バトラーのように働いた。最初は、「それはセールスマンの仕事ではない!もっと稼げることに時間を使え」と言う意見が上司からでたが、日々の積み重ねでリピートゲストが育ち、売り上げが上昇していくと、なにも言わないようになった。

ファイブスターホテルに泊まる日本人ゲストは常にパーフェクトを求める。一つでも不満な点がでると、次は使わない傾向が強い。同時に、個人的つながりに価値を見出すので、ホテルに知り合いがいて、便宜を図ってくれるとなると、律儀に毎回使ってくれるようになる。一方、アメリカ的発想では、ミスはどこでも起きるから、1度のミスで選択肢から外してしまうのは自分にとって不利益な行いとなる。また、スタッフに管轄外の仕事はさせないので、個人ではなく、システムで“おもてなし”を出すようにする。

昨今、アメリカのファイブスターホテルは、バトラーの数を増やしている。バトラーは毎回そこにいて、おもてなしをしてくれる。休暇中で、会えないかもしれない知り合いスタッフとはわけが違う。また、顧客管理記録を利用して、リピートゲストの趣向にあったギフトを自動的に部屋に届ける。

個人の力に頼る日本とシステムに頼るアメリカ。昔から、これが両国の明確なる違いだった。システムはいくらでも進化させることができるが、人間ひとりの力には限界がある。時間とともに、サービスレベルの差がひらいていく理由をここに見ることになる。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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