HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
110

世の中の変化に対応していくアメリカのホテル

今から20年前、アメリカでは、クイーンサイズベットの部屋に男性2人で入りたいという依頼を断っても問題にはならなかった。いや、むしろ断ることの方が多かった。だが、この10年で世の中は変わった。現在、断るようなことをすれば、それはそれは大きな問題となることは間違いない。

新しい流れとして、トランスジェンダー論争が起こっている。女性の心を持って生まれた男性に女性用トイレを使うことを許すべきか否かという論争&裁判がある。オバマ大統領は“心に従うべき”と言った。だが、裁判で“身体に従うべき”としたところもある。たぶん、この論議の決着はつかない。解決方法は、男女兼用の、便器と手洗い所が付いている個室スタイルのトイレを増やすことだろう。

アメリカのホテルのトイレは、ある時を境に、一斉にトランスジェンダーに対応できるトイレに変わるときが来るだろう。白黒をはっきりつけるのがアメリカの習わし。一旦法律で決められたなら、否応にも動かざるを得なくなる。動かなければ、営業停止などの手痛い罰則を科せられることになるからだ。

日本でも、トランスジェンダー論争は起こっている。日本文化がこれを無視して現状のトイレを造り続けるとしたら、“日本は遅れている”というレッテルを張られることになる。オリンピックを目指して建てられる建物は全てトランスジェンダー対応のトイレを造るべきだろう。アメリカのスピードでは、これから3年後は、トランスジェンダー対応トイレがスタンダート化している可能性が強いからだ。

1969年夏まで、プラザホテルのメインダイニング“オークルーム”には女性だけでは入ることは許されていなかった。“Men Only Policy”という男性優位のステータスによって造られた決まりがあったからだ。1966年、女性の地位向上を求める“National Organization of Women” (NOW)が設立され、1969年2月、プラザホテルで集会を行い抗議運動を起こした。それから4か月後、Men Only Policy は廃止となる。

人は、法律に反していなければ、他人に害を与えない限り自由に動ける。その自由を遮る理由の通らない嫌悪は“ヘイトクライム”として法律が罰する。昔、ホテルは差別意識を持つ特権階級の人々を楽しませる場として栄えた。今は、法律を守る場へと変化を遂げた。ゲストだろうとスタッフだろうと法律のもとにおいて、全ての人が平等に扱われる場でなくてはならない。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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