HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
109

大手ホテルチェーンの追撃

アメリカの大都市では、個性的な高級ブティックホテルが平均単価でも稼働率でも、同レベルにある大手ホテルチェーン運営のホテルを引き離した状態が続いている。これは、従来のホテルの在り方に飽きた人々が、驚きや感激や刺激というものを与えてくれる個性を備えたホテルを求めるようになったことで起きた現象だ。当分、この流れが変わることは考えられない。そこで、大手ホテルチェーンも個性派高級ホテルの建設に乗り出した。

マリオットは、“エディション”ブランドで個性派ホテル市場に参入。これは、数多あるマリオットブランドの中で、リッツカールトンとJWマリオットの間に置かれる高級ブランド。既に、ロンドン、マイアミ、そしてニューヨークでオープンさせ、2018年末までには、その他12都市でも完成させることが決定している。

ニューヨークのエディションは、1909年から1913年まで世界一高かったメトロポリタン・インシュアランスカンパニーの本社ビルを改造して造りあげたホテル。中央に大きな時計が付いていることから、“時計台”として親しまれているランドマークビル。それゆえ、ホテルに改装されると発表されたときは、ニューヨークの人々を驚かせた。内装は、1909年当時の造りをそのまま残した部分が多く、殊にレストランのアンティーク構造は、その装飾の豪華さに目を見張る。

スターウッドでは、1998年にニューヨークのレキシントンアベニューで始めた“Wホテル”ブランドを利用して、高級デザイナーズホテルへの道を歩みだしている。昨今オープンしたアメリカ国外のWホテルは、驚くほど豪華で奇抜な構造が多く、スターウッドグループの中で最高級ブランドであるはずの“セントレジス”を、同都市にあるWホテルが平均単価で追い抜くという現象が生まれている。だが、もともとは、バーをレストランと兼用にしたり、宴会場の数を最小限にとどめたりと、宿泊売り上げで高い収益をあげるために設計されたホテル。アメリカ国内に現存しているWホテルでは高級路線を行くには無理がある。そこで、改装しても高級ブランドに生まれ変われないホテルは、今後、Wホテルとしての運営を辞めるという大胆な戦略に入っている。

双方とも、どれだけ本気でこの市場に参入しているかは理解できる。あとは、サービス面で、高級ブティックホテルが行っている“宿泊ゲストを特別に大切にするサービス”を生み出せるか否かにかかっている。これまでのチェーンとしてスタンダート化されたサービスでは太刀打ちできない。これらのブランドだけ、それをどこまで変えられるかが焦点となる。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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