HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
104

チップの最新状況

一流レストランのウエイター&ウエイトレスは、チップで大きなお金を稼ぐ。単純計算すると、一人平均200ドルするレストランで働くウエイター&ウエイトレスは、一人担当するごとに36ドル入り、(現在は18%が相場)一晩に15人担当すれば、540ドル稼ぐことになる。ひと月20日間勤務で、10,800ドル。年収にすると129,600ドル(1ドル=100円計算で1,296万円)になる。

一方、キッチンで働く人々はチップは貰えず、月給制で儲ける。会社は、月に10,800ドルもの高給は払えないので、ウエイター&ウエイトレスの稼ぎとは大きな差が生まれる。近頃は、キッチンで働くスタッフからの苦情に対処するため、チップではなく、サービスチャージを自動的に加算して取り、キッチンのスタッフも含めて分配するところがある。

食事を楽しむ我々は、この状況に対処するため、チェック(伝票)を受け取ったら、必ずサービスチャージが書かれていないことを確認することが必要だ。調べずに、チップを払ってしまうと、必要とされる額よりもはるかに多くを払ってしまうことになるかもしれない。また、サービスチャージという単語でなく、グラチュイティー(Gratuity)というチップの類義語が書かれていることもある。これはチップと同じことなので、この名目で金額が加算されていたら、やはりチップは払う必要はない。レストランはグラチュイティーを払ってもらったうえに、気前のいい人から、追加でチップをもらうために、チェックにチップの金額を書き込む欄を用意している。

大きなレストランやホテルでは、大概、チップは勤続年数の長い者が多くを受けるように分配される。また、支払われる前に、源泉徴収も行われる。一方、小さな組織の場合は、毎日、現金で分配されて、持って帰るところが多い。

アメリカに暮らしていると、チップを払わない日はほとんどない。マンションで働くドアマン、ピザを届けてくれたデリバリーマン、ガソリンを給油してくれたスタッフなど、1ドル札は飛ぶように出ていく。アメリカの人口は約3億2千万。単純計算で、子供を省いた2億人が5ドルづつのチップを払ったとしたら、毎日1,000億円ものお金が世の中を動くことになる。現金でもらったお金の多くは、税金対策上、預金されずに世の中を動き回る。世の中を動きまわるお金が増えれば、景気は上がる。チップは正にアメリカの景気を良くするためのカンフル剤としての絶大な役割を果たしている。

日本にチップ制度があれば、多くの職種の人々に夢を与えられるだろう。同時に、景気低迷の救世主的役割をも果たすことだろう。

全てのバックナンバーを見る

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

著書紹介

超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

はえくんの冒険

(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

こちらもおすすめ