HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
102

人材が最も大切なアメリカのホテル

“People make a difference” (人が違いを造りだす)は、一九八〇年台に、私がウエスティン・ホテルズに入社したときに聞かされたフレーズ。その頃は、このフレーズの意味がよく理解できていなかった。日本人は優秀で、与えられた仕事をそつなくこなせる人々ばかりだったからだ。しかし、アメリカは大きく違った。人材に関してはピンからキリまで。殊に、ホテル業で働く人々となるとその差は大きい。

ホテルは肉体労働をする部署が多く、多くは“出世よりも日々を楽しく過ごすことが大切”と考える人々で構成される組織。その分、個人の主張が強くなり、自分を犠牲にしても仕事に尽くすという精神は薄くなる。多くはユニオン(労働組合)に入り、自分を守る。ユニオンに入れば、管理職になる道は途絶えるが、よほどの理由がないかぎり、解雇にはならないからだ。実際、ニューヨークにある75%以上のホテルがユニオンで構成されるホテルになっている。

そうした環境の中で、優れたサービスを生み出し、多くの人々の気持ちをつかむには、マネージャーのポジションにいる人々が卓越した力を発揮する以外にない。マネージャーは、人の気持ちを読む達人でなければならない。一般スタッフから“この人の言うことは聞きたくない”と思われたら、優れたサービスを実行することは不可能になるからだ。また、他のホテルの上を行くためには、卓越したアイデアをだし実行していかなくてはならない。“普通の人”であれば“普通のサービス”しか出せないで終ってしまうことになるからだ。

しかし、人の心を読む力も、卓越したアイデアを生みだす力も、普通の環境の中では育ちづらい。自分自身で目的意識を持ち、切磋琢磨できる者。或いは、そうした人々が多くいる中で働き、周囲を見習うことができる者だけが持てる能力だ。

優れた組織は、優れた人材を置くことの大切さを十分に理解している。それゆえ、高い給与を出しても、優れた人材の引き抜き合戦を行うことになる。アメリカのホテル業にとって“People make a difference”ほど“的を得た”フレーズは無い。それを理解できたのは、アメリカのホテルで実際に働くことができたからだった。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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