Vol.
94
チップにより基本給が変わるアメリカのホテル
アメリカの組織は不公平な状況を許さない。不公平を感じたスタッフが訴訟に走り、組織が大きな代償を払わされた苦難の時代があったからだ。今では、優良企業であればあるほど、不公平を許さない組織をつくり上げている。
私の同僚で、コンファレンス・サービス・マネージャーからセールス・マネージャーへと部署を移動した者がいた。移動したとき、彼の基本年俸は2万ドルもアップした。「よくそんなに上がったな」と感心すると、彼は「当然のことだ。でなければ不公平だ」と、言った。
コンファレンス・サービス・マネージャーは団体の手配を行うのが仕事だ。団体がホテルに宿泊している間も、彼らが窓口となり、団体からの依頼を受けて対応する。こうしたサービスを行うので、彼らは、お礼として“金一封”を受け取ることになる。額は、団体が大きくなるにつれて、大きくなるのが普通だが、チップと違い、売り上げの20%などというガイドラインもなければ、契約書に「○○支払ってください」という明記もない。いくら払うかは、その組織次第となる。
一方、セールスマネージャーは、ホテルを売り込み、団体との契約を結んだところで役目を終えるから、サービスマンとして働くことはない。それゆえ、金一封を受け取ることはあまりない。だが、その分、売り上げによって支払われる“インセンティブ”と呼ばれる特別ボーナスがある。自分の売り上げ目標以上に売れば、インセンティブはかなりの額になる。だが、景気の動向によって左右されることもあり、安定した収入になりづらい。
働けば、必ずと言っていいほど得られる“金一封”は安定収入になる。だから、コンファレンス・サービス・マネージャーの給与は、同レベルにいるセールス・マネージャーの給与よりも低くなる。同じように、枕チップしか受け取れないハウスキーパー(清掃係り)の給与も、ウエイター&ウエイトレス、あるいはドアマン&ベルマンなど、たくさんのチップを得るスタッフの給与よりも高く設定されている。
アメリカのホテルで働くスタッフに与えられる給与は、それぞれの部署が受け取るチップの額も考慮に入れて設定される。それは、不公平な状況を作りださないために生まれた自然な流れだった。
著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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