HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
91

8時間睡眠が必要とされるワーキングスタイル

先日、日本から送られてきたニュースに「6時間睡眠を2週間続けると、睡眠不足が蓄積されて2日間寝ていないのと同じ状態になる」という記事がでていた。私がプラザで働き始めた20年前に言われたことを思い出す。

 日本語ができるスタッフは私だけだったので、日本人ゲストからの電話は私がとり、日本語で送られてきたファックスは全て私が読む。そんな状態がつづき、早朝から晩までホテルに滞在し、週末関係なしに、1ヶ月のうち、ホテルに行かない日は数日しかなかった。そうした様子を見た私の上司が言った。「そんな働き方で、いいアイデアを生み出せるわけがない。現在の売り上げを5倍にできなければ明日はないと思ってくれ。そのためには、1日に8時間は寝て、週に20分以上の運動を3回は行い、年に1週間以上の休暇を2回はとってストレスを抜いてくれ。ぼけたままの頭で仕事に来ないで欲しい」

 アメリカの会社で働くマネージャーは、強い権限を持つ。ひとりで物事を決めて実行に移し、成功すれば、昇進と昇給をつかみ、ボーナスも入る。逆に、成功できずの状態が続けば、職を失うことになる。成否はいいアイデアを生めるか否かにかかっている。長時間労働は意味を成さないばかりか、長時間労働をしているようでは、効率を上げるアイデアを生み出せない人物として、お払い箱になってしまう。マネージャーのマネージャーたるゆえんは、肉体労働よりも頭脳を使うことに大きな比重が置かれていることにある。

 だから、常に体と頭を最高のコンディションにしておく努力を行う。十分な睡眠と適度な運動は不可欠。遠路はるばる出張に来たというような特別な場合を除いては、夜の接待は行わない。誘えば、常識を疑われることにさえなる。社内でも、帰りがけに1杯などという誘いは、年に数回ある程度。

 こうした環境では、「あの人はいつも早く帰って仕事をしない」というような言葉は生まれない。仕事ができずに結果を出せなければ、解雇となるだけだし、いつも早く帰ることは、いいアイデアを生むためのコンディション作りに大切なことでもあるからだ。

 早く帰ることで、集中力を高めた仕事を行い、優れたアイデアを生みだして高い生産性を出す。これこそがアメリカで求められる仕事のスタイルだった。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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