HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
79

夢をかなえてくれたアメリカのホテル

「会社勤めが始まったら、今度はいつ海外旅行にいけるかわからないからなあ。。。」そんな台詞を口々に学生たちは卒業旅行にでかけていった。スーツを着てさっそうと海外を飛び回るビジネスマンになりたい!そんな憧れはあるものの、職につけば運命は会社次第。思い通りに海外にでられる部署に就けるかどうかはわからない。だから、卒業旅行はとても貴重なもの。私が学生だったころは、まだそんな時代だった。

だが、私は、仕事で海外を飛び回ることよりも、海外で暮らすことに興味があった。日本で暮らすこと20余年。もういいだろう。残りの人生は、海外で過ごしたい。それも私が住みたいと思う場所で。そんなわがままな夢をかなえてくれる仕事を探すことが、私の学生時代最後の活動となる。そこで出会ったのがウエスティンホテルだった。

「海外にでたくないのならば、この仕事はやめておいてほしい」面接で言われたことだった。「よろこんで海外で働かせていただきます」即答だった。そして私は尋ねた。「私は自分が暮らしたい国に行きたいのです。そんなことは可能でしょうか?」「もちろん。アメリカの会社は、全て本人次第。自分のやりたいことを実力で掴み取ればいいだけのことだ」私はその言葉に夢を膨らませた。

入社と同時に、マニラのホテルに送られ2週間の研修を行う。その後、主な都市にあるホテルを見るため、アメリカへ出張。そこで私は、絶対にここで働きたい!と、次ぎの目標となるホテルと出会う。ニューヨークのザ・プラザ。当時のウエスティンホテルは世界最高ラグジャリーホテルの名をほしいままにしていた。まだリッツカールトンもフォーシーズンもできたばかりでホテル数が少ない時代。現在、独自のホテルチェーンとなっているシャングリラホテルも、当時はウエスティンホテルに運営されているホテルだった。サンフランシスコのセントフランシス、シアトルのオリンピックホテル、ロスアンゼルスのセンチュリープラザなど、どれもその都市で最高級ホテルと言って、異論を唱える人はいないホテルばかり。その中でも、郡を抜く存在がザ・プラザだった。

私はプラザへの転勤を上司に嘆願。最初のチャンスは2年目に訪れた。私はプラザの営業部長との面接を受けにニューヨークへ飛んだ。だが、経験不足ということで、失敗。その後は、ザ・プラザを目標にしながら、シンガポールのホテルへと移り、海外で働くホテルマンとして、いろいろな国のホテルからの誘いを受けることになる。1年半後、サイパンのハイアットからのオファーを受けて約4年を過ごした後、私は再び、ザ・プラザへと面接を受けに行く。この2回目のトライアルで成功。プラザへの目標をたててから10年近くが経過していた。そのときの喜びと達成感は、生涯の記憶に残る強いものとなる。そして、海外で経験したさまざまなことに支えられ、今は、海外に暮らす文筆家という3番目の目標を持つ自分が存在する。

このわがまま極まりない夢をかなえてくれるホテル業との出会いがなかったら、私の人生は、これほど楽しく、充実したものにはならなかっただろう。ありがとうアメリカのホテル。夢をかなえてくれて。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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