HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
78

ミッドタウンのホテルの歴史

現在、“ミッドタウン”と呼ばれるニューヨークの中心地は、1800年半ばまで、住宅はほとんど無くホームレスがたむろしている場所だった。1853年ニューヨーク都市計画委員会が、“ロンドンやパリのように奇麗な公園を作るべき”と、セントラルパーク建造構想をだし着工。1870年後半に木々が生い茂ると、「この美しい公園を見て暮らしたい!」という需要が高まった。それに応えるべく、最初に建てられたアパートが、ジョン・レノン氏とオノ・ヨーコさんが暮らしたことで有名な「ダコタハウス」。ダコタハウスの名前の由来は面白い。当時のダコタ州には人があまり暮らしていなかった。その人がいない“ダコタ州のような所に建てられた家”だからダコタハウスと呼ばれるようになったという。

ダコタハウスが1880年に完成し、その後27年を経て、同じ建築家、ヘンリー・ハーデンバーグの代表建築物である「プラザホテル」が建てられる。ダコタハウス(72ストリートのセントラルパークウエスト)の近くには、1904年完成の「アムソニアンホテル」という、見とれてしまうほど荘厳な創りをした建物もある。(74ストリートのブロードウエイ)ここはベーブルースが暮らしていたことで知られている。どれも、セントラルパークの近くで暮らしたいという、富裕層の夢をかなえるための建物だった。

1920年後半に、マジソンアベニューの76ストリートに「カーライル」という超豪華ホテルが建てられた。ケネディー大統領は、その中にあるコンドミニアム(マンション)を所有し定宿としていた。今では、イギリス王室やジュリア・ロバーツなどの映画俳優もそこのコンドミニアムを所有している。

プラザホテルもカーライルも敷居が高すぎて入りづらいと言われるが、それなりの服装をしていれば、臆することはない。プラザのカフェ「パームコート」は当時、“世界一美しいカフェ”と言われた豪華なレストラン。また、カーライルのバーは、いつもゆったりとしたジャズが生演奏されていて優雅な雰囲気を醸し出している。

ただ、残念ながら、こうしたクラッシックホテルは、日本人の常識にはない構造をしているため、必ずしも日本に暮らしている人々を満足させられるものではない。ビールを初めてに口にする若者は、にがさに顔をゆがめるが、時がたつに連れてその美味しさを理解するようになる。それと似た過程を経ないと、こうしたホテルの価値は理解できるようにならない。

近代、建てられたホテルで、日本人にフィットするホテルは、最高級ランクでは「フォーシーズンズホテル」。もともとは日本の会社E.I.Eが保有するホテルで、E.I.Eが大株主であったリージェントホテルが運営することになっていた。だが、バブル崩壊とともに、完成を待たずしてフォーシーズングループに売却されて行く。バブルさえなければ、日本がニューヨークで誇れるもののひとつとなっていたであろう。

ミドルクラスで日本人がなじみやすく豪華さを感じさせるホテルとして挙げたいのは、「ル・パーカーメリディアン」。最上階にあるプールに行けば、セントラルパークの絶景を楽しめる。また、ロビーには超人気のレストランが2軒。いつも長蛇の列を誇るハンバーガーショップ「バーガージョイント」と、値段も味もナンバーワンの朝食を出すことで知られる「ノーマズ」。

ニューヨークのホテルの話をしだしたら、何時間あっても足りない。この続きはまたの機会にお話ししたい。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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