Vol.
75
日本的経営が通用しないアメリカのホテル
- Mandarin Oriental Las Vegas
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「アメリカでホテルを成功させるために大切なことはなんでしょう?」という質問を受けることが多くなった。私の応えは決まっている。「各部署のトップに優秀な人材を置くために、それなりの人件費を用意することです」しかし、具体的な数字を言いだすと、「そんなお金を払えるわけがない。そもそも日本のホテルでは。。。」と、反感を買い、相手にされなくなることもしばしばだ。
アメリカのホテルで働いた経験が明確に私に告げている。アメリカでホテル運営を成功させるには、各部署に優秀な人材を置くこと。そして、優秀な人材は高給を用意しなければ得ることができないと。ヘッドハンターが優秀な人材の狩りをおこなう社会では、優秀な人は日本の常識では考えられない給与を得るようになる。アメリカの一流企業のCEOはその会社の平均給与の263倍もの所得を得ているという数字がでているほどだ。トップダウン制の組織では、トップの判断と手腕が会社の行方を大きく左右する。だから大きなお金を払っても優秀な人材を確保する。稟議書を回して、皆の意見で動く組織とは大きく違うのだ。
以前、ワシントンDCの日系ホテルで働いていた友人がこぼしていた。「オーナー会社から頻繁にリクエストがくるんです。このゲストは大切な人だから、部屋代を無料にしてくれとか、半額にしてくれとか。それで、最高の利益を出そうとするスタッフの士気が落ちてしまうんです」。私が働いたホテルでは、無料の部屋をだしてはいけない時期には、オーナーが泊まるときでさえ、お金を払ってもらっていた。
一方、「おもてなし」を導入したいと、おもてなしのエキスパートにスタッフ教育を任せる日本人オーナーがいる。しかし、アメリカのスタッフは長くは働かない。おもてなしの意味を理解し、それに従って働きだすスタッフがいたとしても、じきにホテルを離れてしまうのが常だ。私が働いたホテルでは、フロントスタッフあたりの平均労働年数は2年に満たなかった。だから、アメリカのホテルは人を育てるのではなく、システムを強化することに力を入れる。合理的なシステムを造りあげ、人材の優劣に関係なく、レベルの高いサービスを提供できるようにするのだ。
オーナーはホテルが最高の利益を生みだす足を引っ張る存在であってはならない。また、最高の利益を生みだすために、できる限り優秀な人材を雇う必要性と、それにはお金がかかることを理解していなくてはならない。多くの日系ホテルがアメリカの大都市に広がった時代があった。今では、そのほとんどが消え去った。主な理由は、アメリカの文化と社会組織を理解せず、日本的経営を持ちこんだことにある。
アメリカでホテル運営をしてみたいという相談を受けることが多くなった。日本がアメリカでホテル運営に乗りだす第二の波が訪れようとしているのかもしれない。次こそは、先人の失敗に学び、日本人でもアメリカでホテル経営ができるということを証明してもらいたい。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

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