HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
67

映画を利用したイメージ造り

今、ニューヨークの街のいたるところで「ザ・グレート・ギャツビー」のポスターを見かける。アメリカ文学の名作と言われるスコット・ジラルドの代表作は、高校の授業でも読まれている。1974年に映画化されたときの主演はロバート・レッドフォード。プラザホテルのスイートルームで繰り広げられる論争は、この映画の最高の盛り上がり場面と言っていいだろう。その撮影に実際に使われた部屋は、2005年~2007年の大改装のあと、もはや残されてはいない。今回のレオナルドデカプリオ主演のリメイクでは、1922年当時のプラザホテルの外観を特撮で映してはいるが、撮影に使われた部屋はプラザにある実際のスイートではない。

昨今のデータによると、ニューヨークでは、1日に平均100本程度の映画撮影が行われているということだ。これだけの数だから、街を歩いていると、よく撮影現場に出くわす。ホテルを使ったシーンも数多く、私がプラザホテルに勤務している間にも、たくさんの撮影依頼が来た。それを、マーケティングのトップがプラザのイメージに相応しいものか否かを判断する。プラザホテルはイメージをあげるために、映画をとても効果的に利用していた。

さらに、撮影を許可すれば、撮影料も入る。露出度の多かった「ホームアローン2」では、当時の額にして2億円以上もの撮影料がプラザに支払われている。通常、ホテルの売り上げには多くの人件費や食材費などがかかるため、利益はさほど大きくならない。それに比べ、撮影は最高の宣伝効果と最大効率の利益をもたらす。こんなに都合のよい仕事はない。

しかし、だからと言って、プラザがPRにお金をかけないというわけではない。映画に関しては、先方がプラザを使う必要があるから、お金をもらう。一方、宣伝が必要な市場に広告を出したいときには、プラザがお金を払う。ただし、広告を集めようとしている媒体の多くは、プラザの宣伝を載せたい。それにより、媒体自体の地位が上がるからだ。その利点を利用し、プラザが必要とするPR経費は他のホテルよりも低くすませることが可能だった。

ロンドン、パリ、香港、シンガポール、東京を見まわしても、このようなホテルを見つけることは難しい。映画のロケ地として最も多く利用される都市のひとつ、ニューヨーク。そこにある最も華やかなホテルという条件が、この類まれな状況を造りだしていたのだ。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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