HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
42

セレブゲストが与えてくれたもの

アメリカのホテルの営業マンは、直接ゲストと顔をあわせる機会を多くもたない。だが、私の場合には、ホテルで唯一の日本人スタッフだったので、日本人がらみの全ての仕事を引き受けることになり、必然と多くの日本人ゲストと会う機会が多くあった。プラザという超有名なホテルであったこともあり、多くのセレブゲストと知り合いになった。その中でも、強く印象に残っている3人の日本人ゲストがいる。

まず竹下元首相。1995年に「プラザ合意」10周年記念ということでお泊まりいただいた。その際に、「私の政治家人生の中で、一番大きな仕事がプラザ合意だった。」というお話を聞くことができた。のちに私が書いた「世界最高のホテル プラザでの10年間」では、最初の章に「プラザ合意の生き証人」として、そのときの様子を紹介させていただくことにした。

長嶋茂雄名誉監督をお迎えしたときのことも強く心に残っている。丁度、松井秀喜選手がニューヨークに来た年で、ニューヨーク中が“ゴジラブーム”に沸いているときだった。NHKの方から、「最初はフォーシーズンのスイートをお取りしていたのに、長嶋さんがどうしてもプラザに泊まりたいとおっしゃられて、急きょ変更したんですよ。」と伺い、感謝しながら、昔、石原裕次郎さんと一緒にニューヨークを旅したときに泊まった思い出があるからだろうと思った。

3人目はアントニオ猪木さん。サイパンのホテルで3度お迎えしたことがあった。その後、ニューヨークに移動してから、偶然、恵比寿のウエステインホテルのレストランで再会した。「今はプラザで働いています。」とお伝えしたところ、「モハメド・アリ戦の調印式に使われたホテルです。ニューヨークに行くときは連絡しますよ。」と言っていただいた。それから2週間もしないうちに、「今、バミューダにいて、これからニューヨークに行きます。」と電話が入り、あわてて部屋を用意したことを覚えている。

ロビーで出迎えると、多くのスタッフから「彼はアントニオだろう?」と尋ねられた。プラザの副社長までが「ミスター猪木に会いたい」というので、わざわざ営業部のオフィスまで来ていただいた。それ以来、毎回プラザをご利用いただき、私的なお付き合をさせていただくようになった。ホテルではアフリカ出身のスタッフにまで知られていた。タクシーに乗れば、多くの運転手から握手を求められる。お店に入れば、店員からも買い物をしている人々からも“昔の戦い話”をもちかけられる。“圧倒的に世界で一番有名な日本人”というのが猪木さんを一言で語るときの最もふさわしい言葉だと思う。今回、そんな猪木さんのブラジル時代の思い出を基に、子供向けの小説を書く機会をいただいた。タイトルを「はえくんの冒険」という。海外のホテルで働けたことは、ホテルを去っても尚、素晴らしい機会を私に与え続けてくれている。そのことに深く感謝したい。

「はえくんの冒険」(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

全てのバックナンバーを見る

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

著書紹介

超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

はえくんの冒険

(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

こちらもおすすめ