HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
39

利益を追求するためのホテル構造

“クリスマス商戦の売れ行きが好調”というニュースが先日流れて、アメリカの株価は大幅に続伸した。簡単に言えば、アメリカの景気は人々の気分であがるシステムになっている。クリスマス商戦はアメリカの景気の先行きを見るバロメーター。この時期の売りあげがいいと、“景気が良くなる”というニュースが流される。それを聞いた人々は、株や土地に投資しているお金が膨らむことを見越してお金を使いだす。人々がお金を使いだせば、ますます景気は良くなるという相乗効果が生まれる。日本に暮らす人々からすれば、うらやましいシステムだ。

地方に暮らす人々が、奇麗に飾り付けされたニューヨークでショッピングを楽しむために出て来る。それで毎年11月下旬からクリスマスイブまでの間は、マンハッタンは地下鉄のラッシュアワーのような状態になってしまう。ホテルの客室は不足状態となり、通常の3倍くらいの値段をつけても販売できるようになる。

客室が大きな利益を生みだす一方、くやしい思いをしているのはレストランだ。レストランの値段ばかりは、いくら人が来るからといっても、急に上げることはできない。その理由は、レストランは客室と違って、多くの地元リピーターによって支えられているからだ。急な値上げをすれば、もっとも大切な顧客を失うことになる。せめてもの試みは、“ガラディナー”と呼ばれる高い特別メニューを用意して、クリスマスと年末年始を祝いに来る人々に販売すること。それでも、フードコスト(食材費)とレイバー(人件費)などを差し引くと、“笑いが止まらない”ほどの利益をあげることはできない。

このように、客室利益というのは、レストランとは比べものにならないくらい大きなものにすることが可能となる。これが理由で、アメリカのホテルは客室で多くの利益をだす構造にしてある。不景気が来て、レストランに人が入らなくなれば、レイオフ(一時的自宅待機)という手段をとって人件費を削る。さらに削減が必要なときには、レストランを閉めて宴会場として利用する。宴会場にすれば、予約が入ったときにのみ食材を買いこみ、スタッフを用意すればいいから無駄が生じない。

チャンスとみたら、客室料金を2倍にも3倍にもして最大の利益だす。冬の時代がくれば、スペースを閉鎖してスタッフの数を削り、最低限の規模で営業を行う。できるだけスペースは利益率の高い客室に使い、レストランや宴会場には使わない。こうした柔軟な運営方針がアメリカのホテルの強さを生みだしているのだ。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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