HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
38

グローバル化の波に乗るアメリカのホテルチェーン

アメリカのホテルの話をしていると、「アメリカは世界の一国に過ぎない!」と反発されることがある。確かにアメリカは世界のひとつの国に過ぎない。だが、実際に暮らしていると、あまりにも世界中の人種が入り混じっているので、「アメリカは小さな世界だ」と言いたくなる。人々の文化風習が違うなかで、統率をとらなくてはならなかったこの国は法律を強化することで秩序を見出した。グローバル化が進み、移民ではなく、実際に多くの国々が交わって行くなかで、アメリカの秩序は高く評価されることになるはずだ。

ホテルで働いていて思ったことは、その特異な秩序が人々をさまざまな面で守っているということ。そもそも相手に失礼なことを言うことができない。失礼な態度をとれば法律的に危なくなるからだ。それはゲストでも同じこと。ホテルが失敗をしたとしても、ゲストはスタッフに失礼にならないように怒る。私もゲストから怒られたことがあるが、「I would appreciate your consideration.」(もっとご配慮していただけるとありがたいのですが)というような言い方をされた。そんな世界で働いてきたから、私も相手を攻撃するような怒り方はできなくなってしまった。この文化を日本に持ってきたならば、もっと暮らし易い国になると思う。生まれたときから、そうした文化の中に入れば、子供のいじめも少なくなるだろう。私はアメリカ文化の良い面が日本に入ってきて欲しいと思う。

今、世界ではグローバル化が席巻している。ホテルで見るかぎり、その基準になっているものはアメリカの基準のように私には見える。中国、韓国、インド、シンガポールなど力をつけてきたアジア諸国では、たくさんの学生がアメリカに行きアメリカのシステムを学んでいる。そして、祖国に戻った彼らはマネジメントレベルにたってホテルを運営している。だが、そうした流れとは逆に、日本の留学生は激減している。円高が進み、ますます企業が海外に拠点を構えなくてはならないときに、海外で働ける人材が不足している。

否応なしにグローバル化は日本を呑みこむ。そして、グローバル化は勝手ながら、強い国のしきたりを弱い国に押し付ける。日本の大都市にある魅力的なホテルはアメリカ系のホテルチェーンに買収され、そこで働いているスタッフはいきなり英語まみれになる事態が起きている。日本は、外国人相手に臆することなくビジネスができる人材を育てることが急務だ。そのために、英語はもちろんのこと、彼らのビジネスのしきたりなどを勉強しておかなくてはならないときを迎えている。その支援のために、私はGPAという組織を造ることにした。

全てのバックナンバーを見る

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

著書紹介

超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

はえくんの冒険

(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

こちらもおすすめ