HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
29

労働環境に見る日米の違い

アメリカ人はとても自由に生きている。職場に不満を抱えたまま仕事をする人はまずいない。また、その不満が会社の監督不行き届きから生じていることならば、訴えることも辞さない。アメリカの法律は基本的に弱いものを守る。そして、多くの場合、弱い者はスタッフであり、強い者は企業である。

だから、会社はスタッフの不満を取り除くことにいつも力を入れている。私が働いたホテルでは、定期的にアンケート調査をして、誰がどんな不満を抱えているかを調べ、個人面談をしてその不満をつぶしていた。不満の原因が上司にあれば、上司も処分の対象となる。上司の一番大切な役割は自分の部のパフォーマンスを最高のものにすること。部下から不満を持たれているようでは、その目的は果たせない。結果、資質がないと判断されるのは当然のことだ。

こうした職場では、いじめの要因はつぶされていく。スタッフが“いじめられた”という報告をHR(Human Resources)に届けていたにも関わらず、会社がなんらアクションを取らなかったとなれば、会社は裁判でとても不利な立場に立たされることになる。だから、パワーハラスメントもセクシャルハラスメントも起こらないシステムを作りあげる。出世する者は常に正しい考えを持ち、周囲から尊敬される者だけとなる。

労働環境を良くするシステムを持っているか否かは企業の格にも現れる。甘い考えを持つ企業は訴訟される回数も多くなり二流扱いされるようになる。だから、一流企業を自負する企業はなおさら労働環境を良くすることに力を入れる。アメリカにある日本企業の現地法人がセクシャルハラスメントで訴えられたり、和食レストランがチップをきちんと分配しなかったりしたことでたびたび訴訟されるのも、甘い考えをぬぐい去ることができないことによるものだ。

一方、これだけ企業は良い労働環境を作りだす努力をしているのだから、当然、働く側にも責任を背負ってもらうことになる。能力を発揮せずに怠ける者は仕事を続けることはできない。アメリカの都市にはパチンコ屋もなければ、ビデオ観賞個室もない。こうした社会では流行らない。仕事中にインターネットで株価を見ることも解雇の理由となる。

アメリカの法律社会は、企業に個人の権利を守ることを強く求める。そして、企業はみんなが楽しく働ける労働環境を作りだす。その一方で、怠ける者、労働環境を乱す者には厳しい処罰を与える。日本の企業とアメリカの企業、どちらにも一長一短はある。あなたはどちらを望むだろうか。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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