HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
23

サービス発展途上国 日本

日本はアメリカに比べて、2.5倍も自殺率が高く、西側先進国では一番の自殺大国。アンケート調査の数字を二つ紹介すると、社内でいじめがあると答えている一般企業が74%。ホテル業を辞めたいと考えたことがある、または思っているホテルマンが73%。
私が働いたアメリカ企業では、いじめに苦しんでいたり、仕事を辞めたいという者は周囲にいなかった。私自身、海外にでてからは、会社に行くのが嫌だと思ったことはない。ことに最後の10年を過ごした、プラザホテルでは毎日オフィスに行くのが楽しくてしかたなかった。だから、日本のこうした状況を見ていると、社会も会社組織も改善されなくてはならないと思う。

主たる原因は両国の社会と会社組織を比較することで明らかになる。まずは法律が身近にあるか否かの差。アメリカは法律社会と呼ばれるがごとく、物事の白黒を法律が決める。だから、人々は心に法律意識を持つ。例えばホテルで不快なことにでくわす。そうしたとき、「こんな要求をしても法的に通らないだろう」と思えば言わない。だが、日本人には法律意識はない。大風呂敷を広げてみれば、要求が通るかもしれないという気持ちが先行してしまう人が多い。それが無理難題となり、ホテルのスタッフを苦しめる。ホテルで働くスタッフの中にうつ病に苦しむ人が多くいる一つの大きな原因となる。
つぎに社内の労働環境。私が有給休暇を二年間とらなかったら、勝手に会社が有給休暇を買い上げてしまった。「とらなかったのは勝手なんだから、そのままにしてくれればいいのに」と言ったら、「そんなことをしたら、労働局の調べが入ったときに大変なことになる」と言われた。HR(人事部)は年に一回はアンケート調査をして、誰がどんな問題を抱えているかを調べて、それを潰している。不満分子を抱えておくと、訴えられたときに大変なことになるからいつも気を使っているのだ。

部下から評判の悪い上司も解雇となる。不満を持たれるような上司は、部下の能力を最大限に発揮させることなどできるはずがない。よって、人の上に立つ能力のない人と判断される。必然的に、上司は部下の労働環境に細心の注意を払う。こうした状態ではパワーハラスメント(上司が地位を利用して部下に圧力をかけること)も起らないし、社内でのいじめも起らない。
とても残念なことだが、人々が楽しく働ける社会づくりという点で、日本はアメリカに大きく遅れをとっている。上記はほんの一例に過ぎない。こうした状況の詳細と解決策を伝えたく、「サービス発展途上国日本」-お客様は神様ですの勘違いが日本を駄目にする-を出版することにした。日本の労働環境をよくするためのヒントとしていただければ、こんなに嬉しいことはない。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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