HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
20

姿を消したマンハッタンの高級ホテル

リンカーンセンターのとなり、63ストリートのブロードウエイにエンパイア ホテル(Empire Hotel)がある。2003年から始まったアメリカの住宅バブルで一度はコンドミニアム(分譲マンション)に改造されて、ホテルとしての歴史を終えようとしたホテルだ。だが、ぎりぎりのところで奇跡的に新しいオーナーが全てを買い上げて運営を再開させた。

当時、人々が安い金利で住宅ローンを借りられるようになったこと。そして、ローンを持つことで大幅な減税ができることから、賃貸で暮らすよりも買ってしまうほうが得という強い社会的流れができた。マンハッタンのコンドミニアムは飛ぶように売れて不足状態となった。それで多くのホテルがマンハッタンから姿を消した。マンションを建てるには時間がかかる。手っ取り早く造るためにはホテルを買って改造するのが一番の方法だったのだ。マークやスタンホープなどアッパーイーストサイドを代表したおしゃれなホテルがたくさん姿を消した。

私は、デベロッパー(不動産会社)がランドマーク・ホテルを買い上げてマンションにしてしまうことに強い憤りを覚える。ランドマーク・ホテルは世界中から訪れる人々に利用されるところ。いわば、世界の人々のための憩いの場だ。それを一握りの金持だけが楽しむ空間にしてしまうことにやるせなさを感じるのだ。

プラザがコンドミニアムに改造されてしまったのも、プラザならば誰でもが住みたがる。高い値段で売れるだろうという考えにもとづいての計画だった。途中で市民の猛反対にあい、当初の計画は頓挫しかろうじて三分の一はホテルとして守られた。不幸中の幸だった。ただ、最近の傾向は、ホテルを建てるときから一部をコンドミニアムとして販売し、ある程度の借入金を先に返してしまうという動きが強くなった。ホテルの一部として存在するコンドミニアムの管理費は高いので、毎月ある程度の安定した利益を得ることもできる。いわば一石二鳥のプランだ。最初から作られたこうした計画には納得できる。

中に入ってみると、エンパイア ホテル(Empire Hotel)はとてもきれいに改装を終えていた。部屋には清潔感があり、古い建造物でありながら全ての部屋から眺めがある構造になっているのには驚かされた。深夜三時まで営業している最上階のバーからは、ブロードウエイに古くから存在する豪華な建造物を見渡し昔の写真を見ているようだ。二回にあるレストラン&バーも洒落ていて不景気にもかかわらずにたくさんの人々でにぎわっていた。建物の脇にはホテルの直営ではないが、1880年代から営業をつづける古き良き時代のアメリカの雰囲気を持ったレストランがある。屋上にあるプールは都会の小さなオアシスという感じだ。

帰りがけにホテルを見上げて、このホテルが生き残れたことに私は嬉しさを感じた。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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