HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
14

法律の国と常識の国

禁煙の規制が益々強くなってきたアメリカ。ホテルでも、全館禁煙とするところが増えてきた。だが、アメリカの人がほとんどタバコを吸わないかといえば、そんなことはない。喫煙者も多くいる。それにもかかわらず、こうしたことを断行する企業。そして、それを容認する人々。私はそこにアメリカの素晴らしさを感じる。

ほぼ単一民族国家だった日本。同じ文化の中で育った人の考え方は似通ったものになる。だから、人々は常識というものを持ち、それにそって動く。常識から外れた行動をとる人は、「非常識な人」と言われて、疎外されることになる。だが、常識の範囲は人によって差がある。それが争いのもとになる。たとえば、喫煙席にいる幼児の前でタバコを吸っていいものかどうか。喫煙家は、「タバコが気になるのなら禁煙席に行けばいいでしょう。そのために禁煙席があるのだから。」と言った。幼児の親は、「禁煙席があいてないから、仕方なしにこちらに回されたのです。だから、喫煙を止めてください。」と言った。どちらに分があるだろうか。

アメリカは、こうした人の主観の違いによる争いが起こらないように、法律でレストラン全てを禁煙にしてしまった。「他人の健康を害す権利は誰にもない。」という基本事項にのっとり、人が争う余地のないものにしてしまったのだ。アメリカは移民の国。さまざまな国からさまざまな文化風習を持った人々が集まった。必然的に常識もさまざまなものになる。だから、常識任せでは社会は成り立たない。そこで、人々の行動の指針となるものを用意しなければならなかった。それが法律。法律で決められれば、誰も文句は言わない。従えないものはアウトローと呼ばれ監獄に入ることになる。法律社会と言われるゆえんである。

常識や人の自主性に任せて、ことがすべてうまく行けば、そんなに素晴らしいことはない。だが、時代とともに人の考えはますます多様化してきている。もはや常識任せではうまく行かない世の中となっている日本。このまま放置すれば、人の争いは増え続けることになるだろう。日本もアメリカのように、もっと法律を身近なものにして物事の白黒を明確にしなければならない時代を迎えていると私は思う。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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