HOTEL in U.S.A 私が見たアメリカのホテル

Vol.
2

チップの誤った常識

多くの日本人は、アメリカにおいては、非常識な人である。アメリカに暮らしていないのだから、アメリカの文化風習を知らなくて当たり前。だから、恥じることではない。だが、非常識な人は嫌われるから、要注意だ。

再来月に、団体をつれてくる大切なゲストが帰る朝、私は、彼のチェックアウトをスムーズに行うために電話を入れた。
「荷物は幾つありますか?」
「スーツケースが3個と、買い物袋が2つです。」
「すぐにベルマンを部屋に送りますので、少々お待ちください。」
「それはありがたい。持ちきれなくて困っていました。よろしくお願いいたします。」
私はすぐにベルデスクに向かった。
「1301号室に荷物を取りに行ってくれる?」
「いいよ。だが、チップはきちんと払ってくれるんだろうな?」
私は腕を組みながら応える。
「多分、大丈夫だと思う。」
10分後、ベルマンはカートに荷物を積んで戻ってきた。私は尋ねた。
「どうだった?」
彼は呆れた顔で応えた。
「2ドルだけだったよ。」
「ゲストは相場を知らないだけだから、心配しないで。見送るときに、もっともらってくるから。」
私はゲストを見送った後に、ベルデスクに戻り、10ドルを渡した。
「はい、これあのゲストから。」
「有難う。」
ゲストから徴収したものではない。さすがに、ゲストにもっとチップを払ってくれなどとは言えない。だが、ゲストが払ったことにしておかないと、彼の日本人から離れていたいという気持ちが大きくなってしまう。
ベルマンには、荷物1つにつき2ドルを、ドアマンには、1人につき1ドル50セントを払う。端数がでる場合には切り上げる。これがチップのおおよその相場だ。荷物が5つあれば、ベルマンには10ドル。2人でタクシーに乗るのであれば、ドアマンには3ドルを払うことになる。

チップを余分な出費と考える人がいるが、なにもアメリカのホテルで多くのチップを払っているわけではない。日本のホテルでは、部屋代に10%のサービスチャージがついている。3万円の部屋に泊まっていれば、3千円を毎日払っていることになる。ドルにして25ドル。2泊もすれば50ドル。アメリカのホテルで払うチップのほうがだいぶ安い。

「勘定書きの中にチップの15%が書かれていた。失礼じゃないか!」こんな苦情を受けることがある。私は「計算する手間が省けるじゃないですか。いずれにせよ、チップとして、15%を払わなくてはならないのだから。」と、言いたくなる。
「チップはよいサービスをしてくれたことへの褒章だから、期待に見合ったサービスが受けられなかった場合には、少なくて良い。」という、誤った常識を持っている日本人が多くいる。ここアメリカでは、チップは労働賃金の一部であり、15~20%は彼等が受け取る当然の権利だ。だから、個人の主観で金額を変えてはいけない。チップを受け取る部署で働く従業員は、その分、給料が低くなっている。彼等の家計を支える主たる収入はチップなのだ。もしサービスに不満があり、チップを払いたくないのなら、チップの額を減らすのではなく、マネージャーに苦情をあげるべきだ。さもないと、日本人はチップの支払が少ないからということで、益々、勘定書きにチップの額が書かれることになる。

人はアメリカに行く前に何をするだろう?レストランとブティックの場所を調べ、観光スポットの情報を得ることで終わりとする人が多いのではないか。もう1つ、是非、加えていただきたいことがある。アメリカの最低限の常識を持つことだ。その願いを込めて、私は「世界最高のホテル プラザでの10年間」を書いた。

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著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

奥谷 啓介オフィシャルサイト

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